表題番号:2002A-531 日付:2005/09/09
研究課題ホウ素の定量試薬の開発に関する基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 石原 浩二
研究成果概要
 ホウ酸は、グリセリンやマニトールなどの1,2-ジオール類 (H2L) と反応し、安定な1:1 錯体を生成することが古くから知られている。この1:1錯体の生成反応は、平面3配位から四面体型4配位への配位数と構造の変化が起こり、H2L が単座で配位した錯体を生成する過程(Step 1)と、キレートの閉環反応が起こる過程(Step 2)の二つの過程を経て進行すると考えることができる。この1:1錯体の生成反応に関しては、古くから非常に多くの化学緩和法やNMR法による速度論的、平衡論的研究が行われてきているが、キーポイントとなる律速段階については、確たる実験的証拠が得られていないために、どの論文の反応機構も推定の域を出ない。ホウ酸類の反応機構に関しては、主に次の (a)、(b) 二つの主張がなされている。(a) 金属錯体のキレートの生成反応のおいて、キレートの閉環が律速になることは極めて希であるということと、四面体型のホウ酸イオンの反応 (Step 2 に相当) は、平面型3配位のホウ酸の反応よりも 102 ~ 104 倍速いということに基づく、Step 1 が律速であるという主張。(b) ホウ酸の酸塩基反応 (Step 1 に相当) は、拡散律速に近いという1960年代の緩和法の論文 (最近、拡散律速よりかなり遅く、106 M-1s-1 程度であることが示されている) や、式(1) の逆反応の速度定数 kd と配位子の pKa1 や pKa2 の間に相関関係がある (相関関係は単純でなく、信憑性に乏しい) と言うことに基づく、Step 2 が律速であるという主張。われわれは、論理的考察により、過去に行われたすべての研究の実験条件が反応機構の解明には不適切であり、そのような条件下の実験からはただ単に overall な速度定数が得られるだけで、本質的に反応機構の解明には到達し得ないと言う結論を得た。言い換えると、機構解明のために特別に反応系を設計し、適切な条件下で測定を行わなければ、律速段階に関する情報は決して得られないことがわかった。
 本研究では、幾つかの反応系を設計し、それについて精密な測定を行うことにより、キレートの閉環過程が律速であることの実験的証拠を得ることができた。この実験結果は早々に論文にまとめる予定である。