表題番号:2002A-529 日付:2008/06/03
研究課題極細線をベースとしたマイクロ加工
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 浅川 基男
研究成果概要
細線材に要求される技術課題は,細径化,高強度化,高延性化などであり,特に高強度化に関する研究が最も注目を集めている.高強度化の重要な問題点として,最終到達強度に対する線径の影響すなわち「寸法効果」が挙げられる.この寸法効果を解明することは,細線材の高強度化技術の前進に必須である.伸線加工では,ダイスと線材間の摩擦により,付加的せん断ひずみ層が発生する.また,付加的せん断ひずみ層は線径によらず一定の深さであることが確認された.本研究では,この付加的せん断ひずみ層が細線の引張り強さ向上に寄与していると考え,その詳細を力学的,結晶組織学的に究明した.
低炭素鋼SWRM6の線材を対象にして,EBSDを用いた結晶方位測定から集合組織によって表層部と中心部の結晶回転を検討した.また,せん断ひずみ層の引張り強さ上昇の要因として結晶粒分断化に焦点をあて,結晶方位差を観察した結果,以下の知見を得た.
(1)付加的せん断ひずみ層のある表層部の集合組織には結晶方位が2つ存在している.一方中心部と同じ方位,もう一方は付加的せん断変形による結晶格子の回転で発生した方位と推定される.
(2)伸線後の結晶粒は,15deg以下の結晶方位差で分断化されていることが観察された.また,中心部と表層部を比較した場合,表層部の結晶粒がより細かく分断化されていることが確認された.これは表層部のみで発生する結晶回転に起因すると考えられる.
(3)低炭素鋼の多パス伸線材において,真ひずみe = 0.3までは付加的せん断ひずみ層の引張り強さが増加した.しかし,それ以上のひずみでは,付加的せん断ひずみ層と中心部の引張り強さ差が一定となることが観察された.これは,表層部と中心部の結晶粒数の比率が一定の値になるためであると考えられる.