表題番号:2002A-519 日付:2005/02/03
研究課題20世紀後半から現在までのドイツ文学における「故郷」の表現
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 山本 浩司
研究成果概要
 戦後ドイツ文学における「故郷」の表現を考えるにあたり、とりわけ辺境をキーワードにしてきたつもりである。北部のウーヴェ・ヨーンゾン、北東部のヨハネス・ボヴロウスキー、ギュンター・アイヒ、ギュンター・グラス、モニカ・マーロン、ルーマニアのローゼ・アウスレンダ―、パウル・ツェラン、ヘルタ・ミュラー、リヒャルト・ヴァーグナー、ヨハン・リペット、南東部のインゲボルク・バッハマン、ペーター・ハントケなど。とりわけスラブ文化圏との挟間にある東側の境界にこだわった営みに注目してきた。バッハマンとハントケにとってのスロウ゛ェニア、グラスとマローンにとってのポーランド、ボヴロウスキーにとってのリトアニアなど、境界線の彼方に一種のユートピアを志向する傾向は確かであって、それはナチズムの過去を背負う戦後のドイツ文学が素直に「故郷」を打ち出せないことに対する、代償としての意味もありそうだ。50年代の反動的故郷礼賛とも60年代後半からの批判的な反=郷土文学という図式におさまりきれないものが、これらの作家の作品には認められる。
 今後の課題としては、計画しておきながら必ずしも十分に検討できなかった90年代以降のベルリン小説の隆盛とオスタルギーの言葉でまとめられるDDR出身の若手作家たちによる作品などを合わせ鏡としながら、50年代から80年代の文学における「故郷」の特性をより精密に捉えていかなければならない。
 2年間の研究期間の多くは資料の収集と正確な読解に費やされたが、ヨーンゾンが終生こだわったメクレンブルクの地に実際に足を運び、彼が小説の中でオマージュを捧げた同郷の詩人・彫刻家エルンスト・バルラッハの足跡をたどることができたのは大きな収穫であった。戦後文学に限定することの困難さも同時に認識させられ、例えばハントケにとってのシュティフターの意味だとか、考えるべき課題は多い。
 研究期間に活字になった研究成果は提出できなかったが、2003年度日本独文学会秋季研究発表会で「バッハマンとアイヒ」について口頭発表し、その成果を日本独文学会研究叢書の形で出版する予定であるし、またいくつかの研究会でハントケやボヴロウスキーについても報告しており、近いうちにこれも活字にできれば、と考えている。