表題番号:2002A-517 日付:2008/03/07
研究課題『光源氏物語抄』を中心とする中世源氏古註釈と、『源氏物語』本文の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 専任講師 陣野 英則
研究成果概要
 2002年度より、中世前期の古注釈書において、『源氏物語』本文の区分に関する注記がどの程度見出されるか、ということを網羅的に調査・検討した。そうした注記は、基本的にほとんど見出されないのであるが、今回の調査・検討によって、『光源氏物語抄(異本紫明抄)』の中に引用されている素寂説が、同時代の注釈に比べると、本文の区分に関してかなり先駆的であること等がわかった。このことについては、既に論文にまとめてあり、近く刊行する予定の著書『源氏物語の話声と表現世界』に、これを補正した上で収載する予定である。
 これと並行して、2003年度からは、中世に成立した『源氏物語』の古注釈書のうち、重要な位置にありながらも未だに翻刻さえなされていないものに注目すべきであろうと考え、それらの注釈書に関する調査の準備をはじめた。特に、京都・陽明文庫のみに現存する『長珊聞書』(全53冊)は、室町末期までの諸注を集成する膨大な注釈書であり、注目に値するとおもわれた。『源氏物語』注釈史上とりわけ重要な「家」と目される三条西家の公条の講釈を聴聞した、長珊なる人物によってまとめられたものであるが、未だに充分な調査も翻刻もなされていない。
 そこで、2003年12月、陽明文庫を訪ね、写本の調査にあたった。結果、その注釈内容は(先行する注釈の引用も含め)かなり詳細であること、殊に、他の古注釈では常に注記の分量が少ない「宇治十帖」に関しても、その量・質ともに充実していることなどが確認された。中世後期の『源氏物語』古注釈の展開を把握する上で、きわめて重要な注釈と考えられることから、全53冊、計3000丁(6000頁)を超える写本の紙焼きコピーの許可を申請し、かつはその翻刻・紹介についても許可を得ることとなった。2004年度以降、その翻刻作業に取り組むこととなろう。