表題番号:2002A-504 日付:2004/03/24
研究課題わが国の金融所得課税のあり方に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 馬場 義久
研究成果概要
本研究によって得た主な知見は次のとおりである。
1.わが国の現行金融所得税制は、課税の中立性・公平性・簡素という租税原則からみて問題が多い。とりわけ、株式関連の所得を預貯金利子に比べて重課しており、このことが、わが国のリスクマネー供給の阻害を生んでいる制度的要因である。
 このような「個別所得税制」とも称すべきパッチワーク税制を生んだ背景には、個々の所得税制で所得再分配機能を果たそうとする分配重視の政策的態度と総合所得税主義へのこだわりが考えられる。
 筆者は、以上の知見を既に論文として発表した。
2.わが国の現行金融所得税制の改革の方向は、二元的所得税を課税原理とすべきである。
すなわち、生涯消費を公平課税の尺度としつつ、資本所得税改革の一環として金融所得税改革を行う。具体的には金融所得間の税率均等化とロスの通算化が求められる。とりわけ、預貯金利子と株式関連のロスの通算が「貯蓄から投資へ」という政策実現にとって重要である。ただし、長期的には法人税と個人所得税の統合、不動産など実物資産所得をも改革の射程に入れるべきである。
 これに対し金融所得税制の改革原理として総合所得税を採用することは、以下の理由から望ましくない。
(1)ロス控除による勤労所得税収入の喪失が大きいこと、
(2)総合所得税の方が租税回避誘因が強く、それへの政策的対処から課税優遇措置を多く生む。その結果、金融所得税制は「限定的総合所得税」に帰結し、税率格差・限定的なロス控除が共存する現行の金融所得税制を再生産する危険性が大きいこと。このことはスウェーデンなどの北欧諸国の経験が示すところである。
 筆者は、この知見に関し、スウェーデンの二元的所得税の経験と実態をまとめた論考を発表した。さらに二元的所得税制に基づくロス控除の優位性を理論的に示す論考を脱稿した。これは、来る5月ごろに共著として出版される予定である。