表題番号:2002A-503 日付:2004/05/25
研究課題国際開発論―開発という政治文化―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 坪井 善明
研究成果概要
 本研究では、理論的な観点と現場からの観点の二つから精力的に研究・調査を行った。
 このプロジェクトは1997年から政治経済学部政治学科の2年生用のコア科目として展開している「国際開発論」の教科書を制作するために計画されたもので、従来の経済学的観点から論じられてきた途上国の開発問題を、政治学の観点から見直そうとするものである。
 理論的な面では、アマルティア・センに代表される「人間開発」という新たな視点がある。これは1990年代初頭からUNDP(国連開発計画)によって採択され、数多くの途上国で実施されている開発手法である。すなわち、従来の経済学視点は、モノに着目した経済成長を中心とする発想であるが、その開発手法と全く観点が異なる。「人間界発」論は経済成長だけでなく、ヒトに着目し人間自身の「開発」をその中心的な課題としている。この場合、「人間」として想起されるのは、現在まで「人間」としての存在を無視されていたような、最貧層の教育を受けられず文字も読めない女性がプロト・タイプとして設定されている。従って、そのような存在が「人間」として生存できる「教育を受ける権利」や医療や保健などの社会福祉を享受し、自らの寿命を生き切る条件作りも大切なファクターとしている。英国、フランスなど欧州の大学院レベルでの「開発教育」を参照しながら、理論面の充実を行った。
 現場からの観点としては以下の3カ国でフィールド調査を行った。アマルティア・センの理論的なバック・グランドとなったインド(2002年1-3月)、そして私の研究フィールドのヴェトナム(2002年3月、2004年3月)、そして経済成長が著しく、同時に国内の貧富の格差が増大している中国(2002年9月)である。現場で実際に問題になるのは何か、ガヴァナンス(統治能力)とは何か、腐敗や汚職を防ぐ組織や方法はなど、現場から汲み上げた視点を理論的な問題と組み合わせて論じる構成になっている。この研究成果は、『国際開発論:政治学の観点から』という題の単行本として2006年2月の刊行を予定されている。