表題番号:2002A-069 日付:2004/11/18
研究課題非同期送受信系アレイによる光カオス秘匿通信
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 小松 進一
研究成果概要
高度情報化社会においては通信のセキュリティーが非常に重要な課題となっている。現在の秘匿通信はソフトウェア的な手法であり,より高性能なコンピューターの開発により秘匿性が低下する恐れがある。そのため物理現象に起因する光カオス通信が注目され,広く研究されるようになってきた。
従来の光カオス通信は,送信器レーザーと受信器レーザーの同期現象に依存した通信であり,同じハードウェアを用いることによって送信器レーザーとの同期さえとれれば,第三者にも読み取り可能となる欠点がある。そこで,本研究では以下のようなカオス的なLD送受信器アレイを用いた新手法を考案した。送信器レーザーと受信器レーザーが同期した状態においても秘匿性を保てることが本手法の特長である。
送信側LDの出力の一部が受信側LDに注入されるように透過率を定めた送受信器をアレイ状に並べ,その離散化した出力の列を結合する。ここで,それぞれの送受信器の透過率を変化させると複雑性の異なるカオス状態を作り出す(透過率ゼロの送受信系を含ませることで比較的容易に異なるカオス状態が生じる)ことに着目し,メッセージ信号を送受信器の透過率の変化に対応させ,出力の複雑性を示すリアプノフ指数の変化によりメッセージを読み取る。秘匿性を保つ「鍵」に当たるものは透過率の選び方と送受信器の個数であり,受信者はあらかじめ送信者よりその情報を受け取っておく必要がある。
まず,数値シミュレーションにより,カオス的なLD送受信器アレイを用いた新手法と従来法であるChaotic Masking法とChaotic Modulation法のパラメーター誤差に対するビットエラーを比較した。その結果,提案手法がより高い秘匿性を有することが確認できた。
さらに,波長1.55μmのDFBレーザーを用いた光学実験を行った。提案手法による出力のストレンジアトラクターを描き,それより送信メッセージに対応するリアプノフ指数を求め,メッセージを読み取ることに成功した。これにより本手法が実現可能であることを実験的に示すことができた。ただし,実験でカオス状態を変化させた際のリアプノフ指数の差異は,数値シミュレーションに比べ一桁程度小さい。LD送受信器アレイの特性を詳細に調べ,より大きなリアプノフ指数の差異が得られる条件を明らかにすることが今後の課題である。