表題番号:2002A-067 日付:2003/05/09
研究課題q-解析学における特殊関数の代数的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 上野 喜三雄
研究成果概要
今年度は、これまでの『多重ゼータ値(MZV)』に関する研究をまとめる論文を博士課程大学院生の
奥田順一と執筆し、プレプリントサーヴァーにアップした。

"Relations for Multiple Zeta Values and MellinTransforms of Multiple Polylogarithms''
(by Jun-ichi Okuda andKimio Ueno, arXiv:math.NT/0301277)


この論文においてはMZVの間に成り立つ『大野関係式』に着目し、まず、この関係式の母関数を作り、
これがみたす差分漸化式を証明した。ここまでは、昨年度発表した論文

"New Approach to Ohno Relation for MultipleZeta Values''
(by Jun-ichi Okuda and Kimio Ueno, arXiv:math.NT/0106148)

で発表済みになっている)。本論分では、さらに、この母関数の逆メリン変換像が多重高次対数関数
(multiple polylogarithm、MPLと略す)のみたすLanden formula と同等であることを示した。
Landen formulaはMPL系の1と無限遠点との間の接続公式と同等であり、結局、我々は大野関係式が、
メリン変換-逆メリン変換を通じて、MPL系のモノドロミー問題として解釈できることを示すのに成功
したのである。論文は平成15年の1月に完成し、その後、京都大学数理解析研究所紀要に投稿された。

この論文の結果は、部分的にはこれまで日本数学会、数理解析研究所の研究会などにおいて発表されて
いたが、この平成15年3月3日から6日まで近畿大学で開催された国際会議"Zeta Functions, Topology
and Quantum Physics''において共同研究者の奥田順一が理論の全容を初めて発表し
(3月4日、奥田順一"Multiple Zeta Values and Mellin Transforms of Multiple Polylogarithms'')、
国内外の研究者の注目を集めた。

論文の続編、および、上記の国際会議報告論文は現在準備しているところである。これらの論文では
MPLに対するEuler型接続公式をメリン変換することによって生ずるMZVの線型関係式と、井原-金子-
Zagier等による有限複シャッフル関係式、正則化された無限複シャッフル関係式について考察を展開する予定
である。