表題番号:2002A-059 日付:2003/04/27
研究課題ジェンダー教育および研究に多文化主義を導入することについて
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 教授 小林 富久子
研究成果概要
 本研究の全体的趣旨は、従来の日本におけるジェンダー研究及び教育で無視されがちであったマイノリティの視点がどのようなものでありえるかを主として米国での例を参考にしつつ探り、それを日本のジェンダー教育にいかに活かすかを考察することにある。
 元来、本研究は、本研究者が所長を務める早稲田大学ジェンダー研究所の有志メンバーをも加えた共同研究として始められたものだが、本研究は個人研究であるため、主として次の内容に焦点を絞ることとした。
 1)日本におけるマイノリティ女性、とりわけ在日韓国・朝鮮人女性の見方や価値観を、近年活躍が著しいいわゆる「在日」女性作家の作品を分析することで、主流の日本女性とは異なる立場や視点を浮かび上がらせる。
 2)1)で得た知見や情報をもとに本研究者個人の報告ないし論文として発表する。
 実際にこの1年間行いえたこととしては、在日女性作家、具体的には柳美里、梨良枝、鷺沢萌等の作品を、背後の社会的・文化的要因にも注目しつつ検討、結果として以下の洞察を得た。
 1)日本社会・文化に巣食う在日への差別・偏見、あるいは異質なものへの不寛容さ等を明らかにしかつ批判している点では、すでに長い歴史をもつ伝統的在日文学およびそれを中心的に支えてきた男性作家たちの作品と共通している。
 2)従来の男性中心的在日文学と違う点は、民族意識がより希薄な点である。従来の在日文学を特徴づけてきたエスノセントリック的傾向――祖国の伝統や文化等を理想化する傾向――がより希薄で、むしろそれ自体に潜む偏狭さや固定観念をも批判する傾向にある。特に在日や韓国コミュニティにも存在する家父長的傾向には鋭い批判を示しがちである。
 以上のように、近年活躍著しい在日女性作家たちは、日本,韓国、男性、女性等の、1つ立場に固執せず、複数の見方や視点が交差する境界にとどまり、多様さに開かれた立場から表現するという共通点が認められる。そうしたいわばハイブリッドで境界的な姿勢は彼女たちの異種混交的な立場ゆえに醸成されたものといえるだろう。
上に述べた本年度の研究の一端は、商学部の紀要において英文論文として明らかにした。また関連する業績としては、アメリカのマイノリティたる韓国系を含むアジア系女性作家に焦点をあて、類似する結論を導き出した、別の英文論文も存在する。