表題番号:2002A-043 日付:2003/05/08
研究課題ヘリオバクテリア、緑色硫黄細菌における光合成系の還元力形成と利用の比較研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 櫻井 英博
研究成果概要
 ヘテロシスト型窒素固定ラン色細菌Anabaena PCC 7120は取込み型ヒドロゲナーゼHupおよび双方向性ヒドロゲナーゼHoxを持ち、その全ゲノムDNA塩基配列が決定され、遺伝子導入法が確立されている。この株をモデル生物として、それぞれの構造遺伝子hupLとhoxHの一方および両方を破壊した3種の変異株、ΔhupL、ΔhoxH、ΔhupL/ΔhoxHを作製した。3つの変異株および野生株を硝酸塩などの窒素源を含まないニトロゲナーゼ誘導培地に移して培養し、水素生産性とニトロゲナーゼ活性(アセチレン還元活性)、成長曲線(クロロフィル濃度)を経時的に測定した。水素生産活性の最大値を比較したところ、ΔhupL株は野性株の4-7倍の活性を示したが、ΔhupL/ΔhoxH株はΔhupL株と比べてそれ以上の活性増大を示さなかった。ΔhoxH株は水素生産性増大につながらず、むしろ15-33%活性が低下していた。また、ニトロゲナーゼ活性を野生株と比較したとき、ΔhoxH株はわずかに(10%以下)低かったが、ΔhupL とΔhupL/ΔhoxH株はそのような低下を示さなかった。ΔhoxH株の成長を野性株と比較したところ、空気プラス1%CO2を通気した場合は差がなかったが、空気のみを通気した場合は有意に遅かった。
 水素生産が最大活性時のΔhupL株細胞懸濁液を用い、アルゴン気相下で、光から水素へのエネルギー変換効率を経時的に測定した。励起光源には模擬太陽光スペクトルを出すハロゲンランプを用い、光合成有効照射(PAR)のみを透過するフィルターを通して強度5-250 W/m2 PARの範囲で照射したところ200 W/m2 PAR以下では水素は照射開始10-35分にわたってほぼ直線的に増加した。250 W/m2 PARでは、活性が時間と共に低下したが、これは光阻害のためと考えられる。励起光強度5-50 W/m2 PARの間では、入射エネルギーに対する変換効率はほぼ一定で約1.0-1.6%であった。光強度がこれを越えるにつれて効率は低下し、250 W/m2 PARで光照射10-20分の効率は0.24%、20-30分では0.17%であった。
 以上の結果より、今後の改良の方向性として、高い水素発生の時間が10時間以上続くようにすること、エネルギー変換効率を可視光に対して2%程度に高めること、強光阻害を受けにくくすることの必要性が明らかになった。