表題番号:2002A-042 日付:2005/03/15
研究課題地衣におけるmycobiontsとphotobiontsの共存バランスの研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 伊野 良夫
研究成果概要
地衣は光合成生物である緑藻あるいはシアノバクテリア(Photobionts)と従属栄養生物である菌(Mycobionts)との共生体である。エネルギーの面から見るとMycobiontsは一方的にPhotobiontsに依存していることになる。両者は共に分裂で増殖するので、地衣体を維持するために双方の増殖速度になんらかの調節がはたらいていると思われる。その調節機能がどちらに存在するか、どのようなものであるかは不明である。本研究は一方の増殖速度を変化させる要因を実験的に与えることによって、地衣の形態、生理機能がどのような変化を示すか調べ、調節機能を解析する手がかりを得ようとしたものである。
材料として、富士山北側斜面の標高約2400mの御庭に生育するミヤマハナゴケ(Cladonia strepsilis (Ach.) Vain.) を使用した。雪が融けた2002年5月に面積約0.3m-2の地衣塊群を4個選んだ。6月から毎月1回の割合で硝酸カルシウム(Ca(NO3)2・4H2O)1gを1リットルの水に溶かした液を3個の地衣塊群にそれぞれ2リットル霧吹きで与えた。1個の地衣塊群は対照として同量の純水を与えた。各地衣塊群から5個の地衣塊を移動できるように処理して、成長および光合成・呼吸の測定に用いた。測定試料はすみやかに生育地に戻した。他の測定には少量の地衣を採取して用いた。測定は重量による成長、同化箱法による光合成(20C, 500μmol/m2/s)と呼吸(20C, dark)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)法によるクロロフィル、C-Nコーダーによる炭素と窒素について行った。成長は対照区の平均値が高かったが、ばらつきが大きく有意差は認められなかった。純光合成速度とクロロフィルa濃度は窒素供給区で有意に高かった。子柄上部の窒素濃度は窒素供給区で有意に高かった。供給窒素はPhotobiontsのクロロフィルa濃度を高め、それが高い純光合成速度の原因となったと考えられる。これは相対的にPhotobiontsの成長がMycobiontsの成長を上回ったことを推測させる。供給窒素量の増加や光強度の調節などにより、さらに大きな変化を与えられるものと考えられる。