表題番号:2002A-013 日付:2003/05/09
研究課題修復的私法の可能性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 高橋 則夫
研究成果概要
 2002年度は、これまでの修復的司法の研究をひとまず整理するという作業を中心に行った。とりわけ、修復的司法の最大の問題は、修復的司法とは何かという定義づけの問題であるので、修復的司法の国際的動向をフォローし、修復的司法の2つのパラダイム、すなわち、犯罪に関わるすべての当事者が一堂に会し、訓練された仲介者を中心として、当該犯罪問題の解決を目指すことが修復的司法と考える純粋モデルと、犯罪によって生じた害(被害者・加害者・コミュニティに対する害)を修復するための一切の司法的活動を修復的司法と考える最大化モデルとを対置させて考察した。結論として、究極的には純粋モデルを志向しつつも、被害者・加害者・コミュニティのそれぞれの修復をまず第1に考えるべきであるということから、最大化モデルに賛同した。
 さらに、刑罰と被害者の関係という問題を研究し、被害者には加害者を処罰する権利があるのか、という問題について取り組んだ。刑事司法における被害者の地位に関わる問題であり、被害者関係的刑罰論の在り方を、クラウス・ギュンターの「象徴表現的刑罰論」とブレイスウェイトの「再統合的恥づけ理論」を素材に考察した。結論として、被害者には、自己の受けた犯罪を公共の問題として提起できるという「フォーラム化」する権利が認められるとして、たとえば、意見陳述について、被害者保護関連2法においては、権利性が付与されなかったが、権利性が付与されるべきであるとした。
 これらの成果は、著書『修復的司法の探求』(成文堂)として結実した。
 研究会としては、月に1回ほど、「修復的司法研究会(RJ研究会)」を早稲田大学で主催し、20名ほどの研究者・実務家と外国の多くの文献を研究した。その成果は、法律時報(日本評論社)に連載中である。
 また、修復的司法の基本書ともいうべき、ゼアの「Changing Lenses」の翻訳作業も完成に近づき、6月ごろには公刊の予定でもある。