表題番号:2002A-012 日付:2005/11/17
研究課題欧州連合(EU)法の憲法化―基本条約改正とEUの法的性格の変化―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 須網 隆夫
研究成果概要
 本研究においては、2つの視点から、EUの憲法化と言われる現象を考察した。第一に、1980年代の一連の基本条約改正の結果として、加盟国からECに移譲された権限の内容を詳細に検討した。一見すると多くの領域においてECの権限行使が可能となっているが、その内容をさらに検討すると、必ずしも加盟国の国家主権と正面から対立するものではないEC権限も少なくなく、単純なゼロサムゲームが、ECと加盟国という垂直的な関係において行われているとは評価できない。第二に、それらのEC権限行使に適用される「補完性の原則」を検討した。1993年に発効したEU条約は、「補完性の原則」を新たに導入した。補完性の原則の意義については、様々な見解が対立するが、実定法的にはEC権限行使を制約する原理であると評価せざるを得ず、ECに移譲された諸権限の行使は、同原則導入以前より抑制されることになる。もっとも、司法審査が十分に機能しておらず、その意味で抑制原理としての機能に限界があることも明らかと成った。
 現在EUは、憲法条約制定に向かった議論を煮詰めており、憲法化の過程は、一層進行するように見える。しかし他方で、1990年代における進展が、単純なEUの国家化ではないことを明らかにした本研究の成果は、今後のEUにおける変化を分析する際に、無視することの出来ない視点を提供することになるだろう。