表題番号:2002A-002 日付:2004/02/16
研究課題プルーストにおける「忘却」と「無意志的記憶」の生成過程
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 徳田 陽彦
研究成果概要
平成14年度の研究は、マルセル・プルーストの作品『失われた時を求めて』の第二巻『花咲く乙女たちのかげに』の第二部「土地の名:土地」を中心におこなった。第二部の冒頭で、話者はジルベルトへにたいする「無関心がほとんど完成した」が、「無関心は間歇的でしかなかった」と叙述している。この叙述の矛盾性・曖昧さを物語の論理の観点から分析して、作者プルーストの意図を考察した。さらに、フランス国立図書館所蔵の「1914年のグラッセ棒組校正刷」(アルベルチーヌはまだ創造されていなかった時期の印刷物)と現行版を、話者とジルベルトの恋愛にかんして比較研究した。その結果、第二部と同様に、話者とジルベルトとの恋愛は終焉を迎えていないことが判明した。第一部では、話者の関心がいつしか母親のスワン夫人にむかい、第二部ではジルベルトはたいして役割を担っていない。しかしプルーストは、現行版では話者が彼女を慕う記述の箇所を削除せず、保持していた。この事実は物語の流れからいえば、一貫性を欠く。それゆえに、冒頭の叙述は一種の“マニフェスト”的意味しかもたないのである。それは、バルベックでアルベルチーヌを登場させる必要にせまられた、プルーストのいささか性急な物語上の矛盾した配慮が形になってあらわれたといえよう。以上の内容を学部の紀要に書いた。