表題番号:2001C-102 日付:2003/03/12
研究課題法称の推論説とその展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 第一文学部 教授 岩田 孝
研究成果概要
仏教論理学派の学匠である法称 (ca. 600-660 A.D.) は、主著『知識論決択』において、陳那 (ca. 480-540 A.D) の論理学をより合理的な視点から解釈し、新たな見解をも提示している。本研究では、法称の論理学について次の二点を明らかにした。陳那の九句因説では、推論における論証因の妥当性は喩例に基づいて決められた、しかし、喩例は、一つの事例であるから、他の場合にも成り立つことを確定するわけではない。そこで、法称は、この喩例に依る考え方を改めた。即ち、論証因と所証との間に、最低限度必要な関係が成り立てば、論証因の妥当性を確定できる、そしてその関係とは、論証因と所証との同一性または因果関係からなる「本質的結合関係」である、という独自な原理を導入した。本研究では、法称が、この本質的結合関係の視点からどのようにして、九句因説をより明快に再解釈したのかを、文献的に解明した。これは、法称の論理学の基礎的研究である(2001年ワルシャワ大学での国際会議、International Seminar “Argument and reason in Indian Logic”にて発表)。
次に、法称の論理学の応用研究として、インド思想での基本的な思考方法の一つである帰謬法についての、法称の見解を解析した。法称以前の仏教の諸学匠は、帰謬法を用いたが、帰謬法の妥当性については、それを暗黙のうちに前提した。法称はその妥当性を立証し、更に、帰謬法を換質換位して構成する帰謬還元法の可能であることを是認した。この法称の帰謬法説の特色を『知識論決択』およびその註釈に基づいて解明した(2002年バンコクでの国際会議、The XIIIth Conference of the International Association of Buddhist Studiesにて発表)。