表題番号:2001C-010 日付:2003/05/08
研究課題PLCβ4ノックアウトマウスの行動異常
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 吉岡 亨
(連携研究者) 人間科学部 教授 柴田 重信
(連携研究者) 理工学総合研究センター 専任講師 池田 真行
(連携研究者) 理工学総合研究センター 助手 広野 守俊
(連携研究者) 人間総合研究センター 助手 平倉 穣
研究成果概要
研究目的
PLCβ4は生体膜を作るリン脂質に約10%含まれる、フォスファチジルイノシトール4,5-2リン酸を加水分解してセカンドメッセンジャーであるイノシトール3リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DG)を産生する酵素である。この酵素の活性化は三量体GTP結合タンパクのうちq型(Gq)と呼ばれるものとだけ結合して行われる。Gqを活性化するレセプターは脳内だけでも数十種類調べられているものの、それらのレセプターが脳機能の発現にどのように役立っているかを決定することは膨大な時間を要する。PLCβ4のノックアウトマウスを用いれば、一つ一つのレセプターを調べるまでもなく、PLCβ4を活性化するレセプターの役割を一括して決めることが出来る。
研究成果
(1)PLCβ4の脳内局在を調べた
PLCβ4を認識する抗体を用いて、パラフィン固定したマウス脳を用いてPLCβ4の局在を調べたところ、小脳、視床、網膜、上丘、副嗅球に存在することが分かった。このことからPLCβ4ノックアウトマウスでは、それぞれ瞬目反射反応、睡眠、視覚、方向定位、フェロモン受容に何らかの異常の起こることが予想された。
(2)ノックアウトマウスでは瞬目反射反応が著しく低下した
耳から音刺激を与えると同時にまぶたを電気的に刺激するという操作を毎日90分間行い、これを5日間続けると、野生型(正常)マウスでは、音を聞いた瞬間にまぶたが閉じるようになる。しかしながら、PLCβ4ノックアウトマウスでは殆んど学習が行われず、マウスに音を聞かせても特別な反応を示さなかった。
(3)ノックアウトマウスのニューロンにおけるCa動員異常の検出
PLCβ4ノックアウトマウスの行動異常を一括して調べるには、脳のスライス標本を作り、Gqを隋伴するレセプタ-を薬物で刺激したときにニューロン内のCaの上昇を見ればよい。この実験をより生理的な条件下で行うには、Ca感受性蛍光タンパクをニューロン内の各部位に発現させることであるという結論に達した。そこで新しい蛍光タンパクであるペリカムやカメレオンなどをニューロン内に発現するトランスジェニックマウスの作製を試みた。その結果、2002年にはカメレオンの、また2003年3月にはペリカムを発現したトランスジェニックマウスを作ることに成功した。