表題番号:2001B-034 日付:2003/05/02
研究課題現代韓国社会における伝統と変容
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 矢野 敬生
(連携研究者) 人間総合研究センター 客員研究助手 林 在圭
(連携研究者) 人間科学部 助手 李 承洙
研究成果概要
 本研究は、近年急速に変動しつつある韓国の地方地域社会(これまで開発において後発地域であった「忠清南道唐津郡」)を対象として、土着文化と儒教的大伝統とがいかに変容し、いかなる適応形態をとっているかについて、韓国社会の現代的変貌過程を明らかにすることを目的としている。そために本研究では、韓国忠清南道の特定地域(桃李里・機池市里・内島)を対象としたインテンシヴな事例研究を行った。まず忠清南道唐津郡の両班マウル(桃李里)と非両班マウル(沿岸漁村の内島)とを対象村落として、村落レベルにおける儒教的大伝統の受容の差異がいかなる異同を呈しているかを実証的に検証した。
 具体的には、①伝統的民俗祭礼としての機池市の大綱引き(実施2001年3月・8月および2002年2月)、②非両班ナウル(内島)の豊漁祭の参与観察調査(調査実施2002年3月)、および③両班マウル桃李里の祖先祭祀と崇慕祭のフィールドワーク調査(調査実施2001年3月)を行った。また、④忠清南道唐津郡一帯における地域開発と環境問題の聞き取り調査もあわせておこなった。
こうした調査研究を通して、近代化(とくにセマウル運動)以降脆弱化した巫俗的な小伝統が近代化の流れのなかで、行政レベルの参与や国家の主導による伝統文化復興政策の活性化に伴い、当該地域社会の伝統的な民俗祭礼の再活性化・祝祭イベント化が生じていることを明らかにした。さらに、韓国における二重構造とその地域的偏差を明らかにし、つづいて近年めざましい伝統文化の再興過程にみられる地元住民と行政との関連を明らかにし、韓国の基層文化の特徴と変化のプロせスを継時的把握する作業を行った。さらに急激な社会変化に伴って、生起した諸問題(たとえば、地方地域社会の過疎・高齢化や墓地問題および開発・環境問題など)についても検討を行っている。
 こうした地方文化をトータルにとらえる視点から、ソウル対地方都市(地域)との地域格差や現代的な大衆文化化の地方への波及、あるいは村落社会の過疎・高齢化、開発に伴う地域社会の変貌といった現代化に伴って生じている諸問題およびそうした社会問題への韓国的な変動および適応過程を実証的・総合的に明らかにする作業を現在継続して進めているところである。