表題番号:2001B-019 日付:2004/01/20
研究課題酸素改変による新規代謝系の構築と工業用微生物の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 木野 邦器
(連携研究者) 理工学部 教授 桐村 光太郎
研究成果概要
【工業用微生物の生育制御システムの開発】
 発酵生産菌の生育を自由に制御することができれば,発酵時間の短縮や目的産物の発酵収率を高めることが可能となる.実際,工業生産では栄養要求性変異を付与した微生物が用いられているが,こうした変異株の取得はネガティブ選択であり,また添加する栄養要求物質によってはコスト高,あるいは精製に影響を及ぼす場合もある.メチオニンは安価で,その要求株は安定な生産実績を示すことが知られている.我々は,鋭意検討した結果,メチオニンの少量存在下で取得した大腸菌のDL-エチオニン耐性株の中から高頻度にメチオニン要求株が得られることを見出し(取得頻度:37%),従来法に比較するとその取得効率は800倍以上であった.遺伝子解析の結果,いずれもmetBかつmetJ変異株であり,メチオニン要求性とDL-エチオニン耐性変異が検証され,また取得温度との関係も見出された.現在,metBとmetJへの部位特異的二重変異導入頻度の高い理由を解析中.
【エネルギー代謝酵素を利用した発酵生産収率の向上と形質転換系の構築】
 クエン酸生産菌である糸状菌Aspergillus nigerには,ミトコンドリア内に通常のチトクロム鎖とは別に酸化的リン酸化を伴わない呼吸系バイパス酵素alternative oxidase (AOX) が存在し,クエン酸生産とAOX活性がリンクしていることを見出している.A. niger WU-2223L由来のAOXをコードする全長2856bpの染色体遺伝子aox1の一部を欠失させ,相同組換え手法によりaox1破壊株を取得し,特性解析を実施した.サザンハイブリダイゼーションとPCR増幅によってaox1破壊を確認できた形質転換株A. niger⊿aox1-1は,AOX活性の特徴であるシアン非感受性呼吸が消失しており,糖代謝活性ならびにクエン酸生産活性の低下が認められた.また,形質転換マーカーとして重要なpyrG破壊用プラスミドを作成.
【有用酵素の機能改変と大腸菌における高発現化】
 遺伝子操作ツールとして重要な制限酵素BamHIの耐熱化をコンピュータシミュレーションと部位特異的変異の導入により達成.当該酵素の高発現はBamHIの制限系と修飾系酵素遺伝子の同時発現が必須であるが,大腸菌においては修飾系酵素遺伝子の発現が律速であることを明らかにした.解析の結果,転写には問題はなくレアコドンの影響で翻訳効率が低くなっていることが判明し,アルギニンに対応するtRNA遺伝子dnaYの共発現によって高発現を達成.