表題番号:2001B-008 日付:2006/10/31
研究課題活断層の発生時期と発生機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 高木 秀雄
(連携研究者) 教育学部 助教授 小川 誠
(連携研究者) 教育学部 助手 澤口 隆
研究成果概要
 2001-2002年度にかけて,とくに活断層に着目し,その発生の時期を探るために断層破砕帯に沿って熱水変質作用で生成した雲母粘土鉱物のK-Ar年代測定を実施した.対象は,従来から検討を進めている富山県の跡津川断層および茂住祐延断層と,淡路島の野島断層である.また,澤口とともにネパールヒマラヤのランタン地域で採取した地滑り性シュードタキライトのESR年代を岡山理科大グループに依頼し,約7万年という値が得られた.筆者らが5年前から着手している愛知県足助剪断帯のシュードタキライト(地震の化石)についても,京大グループに依頼したジルコンのFT年代と,名大グループに依頼したRb-Srスラブアイソクロン年代が最近になって決定され,おおよそ50Ma(未公表データ)という値が得られた.断層ガウジについては遠心機と超遠心機を使用して4つの粒径フラクション(5-2μm,2-1μm,1-0.35μm,0.35-0.05μm)に分離し,その各々について岡山理科大学でK-Ar年代の測定を行った.跡津川断層の飛騨片麻岩(180Ma)由来のガウジのK-Ar年代は細粒なフラクションに向かうにつれて,従来の研究からおよそ60Maで一定になる傾向を示していることが明かにされている.一方,茂住祐延断層の手取層群由来の断層ガウジは最小のフラクションが45Maを示した.ただ,原岩が堆積岩(泥岩・砂岩)であることから,イライトの結晶化度で母岩からのイライトの混入を評価することはできない.したがって,この年代は母岩と熱水変質の間の値(熱水変質の年代の最大値)をとるものと考えられる.兵庫県南部地震を発生させた淡路島の野島断層については,雲母粘土鉱物は含まれていなかった.しかしながら,同じ露頭から一緒に採取したシュードタキライトのFT年代は京大グループによると50Ma付近であるという結果が得られている.一方,研究者の従来の研究から,中央構造線の活断層部から数カ所で60Ma前後の値が得られており,また,跡津川断層と共役をなすと考えられている岐阜県の阿寺断層でも,52-55Maという値が得られている.以上を総合すると,西南日本の主要な活断層の活動は,過去数万年程度の情報しかこれまで知られていなかったが,実際は非常に古い履歴を有し,同じ断層が何度も再活動をしたことが,明確になった.しかも,その時期が60-50Maに集中していることがあきらかとなった.これらの活断層の多くが,後期白亜紀花崗岩類分布域と重なっているため,それらの花崗岩の冷却に伴い,岩体の境界線などを利用して応力を解消する形で断層が発生し,熱水変質が進んだものと考えられる.一度破砕帯が発生して粘土鉱物化が進むと,粘土鉱物の透水性はきわめて悪いので,新に地震が発生しても熱水変質による若返りをもたらさずに,古い熱水変質の時期(あるいは最初に割れ目ができた時期)を保存したものと考えられる.