表題番号:2001B-007 日付:2003/05/08
研究課題高エネルギー天体現象の電波観測
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 大師堂 経明
(連携研究者) 理工学部 教授 小松 進一
(連携研究者) 教育学部 助手 竹内 央
研究成果概要

早稲田大学15号館屋上の64素子干渉計は、世界ではじめてナイキストレートでの多方向(64方向)観測を実現した。
これ以前の、世界の電波干渉計の方式はすべてケンブリッジ大学が1960年頃開発したフーリエ合成干渉計であった。二つの方式を比較すると、ケンブリッジ方式えでは、最小限2アンテナで空の輝度分布のフーリエ成分を得ている。基線長を2倍、3倍,,,のように変えると対応する細かいフーリエ成分が得られるので、アンテナを毎日動かしながら何日もかけて必要なフーリエ成分を求め、最後にフーリエ合成して、空の輝度分布を得る。この方式は少数のアンテナでも、時間をかければいくらでも細かい電波像を得ることができる、画期的なものであり、世界にひろまった。ケンブリッジ大学は、できるだけ不等間隔にアンテナを配列して、より多くのフーリエ成分を効率的に得ることをめざし、この配列を冗長度最小の配列 minimum redundancy array と呼んだ。このスローガンは、いつのまにか無条件に最良のアンテナ配列を表していると思いこまれるようになったが、実は受信する空からの信号の性質がエルゴード的であるという条件を満たしている場合にのみ利用できるのである。この分析をもとに、早稲田大学では、1979年から非エルゴード的な信号に対してもナイキストレートで電波像をつくれる信号処理方式を開発してきた。1996-2000年には、特別推進研究の補助を受けて空間時間FFTプロセッサーを開発し、空間と時間を完全に対等に扱って方向及び周波数識別をナイキストレートで行い電波像ごとに周波数スペクトルを得ることに成功した。これはケンブリッジ方式では不可能な信号処理である。実際、天体の中には、パルサーやトランジェント電波源のように、非エルゴード的な性質の信号をだすものがあり、これらの観測は早稲田方式の干渉計でなけければ効率的なサーベイができない。
このようにケンブリッジ方式と早稲田方式は、観測対象に応じた使い分けをする関係にあることが世界的に認識され、ケンブリッジ大学のヒューイッシュ教授(ノーベル物理学賞受賞)をはじめ、海外から多くの研究者がおとずれるようになった。

64素子は周波数10.6GHzであり、那須の観測所は1.4GHzである。バーストは高い周波数から先に起こるので、2つの装置で抜け落ちなくスペクトル・時間情報をえることができる。すでに2000年4月にはCyg-X3の電波バーストを那須でとらえることに成功した。

那須の20m球面鏡アレイは、極めて少ない経費で高い感度の観測を実現し、一日で数十個の電波源が検出されている。そのほとんどは数十億光年のかなたにあるクェーサーや銀河である。その電波強度の変化の様子を調べて、未同定のガンマ線源の同定をすすめている。この新しい電波望遠鏡のデザインは、国際的に注目され、2000SPIE国際会議(ミュンヘン2000Mar)の電波天文部門で、招待講演に選ばれた。

2002年度から科研費基盤(A)で建設している那須の30m球面鏡は、この20m球面鏡の機能を拡張して観測効果を飛躍的に増大させるものである。すなわち、20m鏡の観測範囲が 32度 < 赤緯 < 42度 であるのに対し、30m鏡では 19度 < 赤緯 < 55度 と3.6倍に拡大し、かつ天体の動きを追尾できる。この機能は、パルスの到達時刻を連続して測るパルサーの観測において不可欠なものである。この機能を実現するには、球面鏡を精密に支える基礎工事が必要となり、最深で3mもの大がかりなものとなったが、文字通り縁の下の力持ちが精密観測を可能にしているのである。 これらの観測を実行するには、受信機の整備や修理、信号処理装置の改良、コンピュータ処理プログラムの改良などを継続していくことが不可欠であるが、特定課題研究によりそれが有効に実現された。これらの観測装置は、メーカーに依頼すれば建設に数十億円かかるものであるが、科研費を含め極めてわずかの予算で実現された。