表題番号:2001A-881 日付:2004/05/24
研究課題シリコンナノ構造配列を用いた微小電子の作成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助手 谷井 孝至
研究成果概要
「シリコンナノ構造配列を用いた微小電子源の作製」

 先鋭なシリコンナノ構造配列は、フラットパネルディスプレイやマルチ電子線リソグラフィ用の微小電子源として期待されている。その理由は、
①材料としてシリコンを用いることにより、従来の微細加工を利用した高密度配列形成が可能なこと、
②微小電子源と同一基板上に制御用の集積回路を組み込めること、
③ナノスケールで先鋭な構造や低い仕事関数が、他の材料と比較して、電界放出に有利であること、
などである。
 我々は、独自に発見したアルカリ溶液中でのイオン照射減速エッチング現象を利用して、鋭い先端を有するシリコンのナノピラミッド配列を自己整合的に一括で作製する技術を開発し、微小電子源配列への応用を推進してきた。本研究の成果を以下にまとめる。

(1) シリコンナノピラミッド配列(2極管構造)からの電子放出特性評価
異なる電気伝導型(p/n型)のSi(100)基板に様々なドーパントイオン(リン、ホウ素、アルゴン等)を照射し、照射損傷をマスクとして、ヒドラジン一水和物中で異方性エッチングを行い、ナノピラミッド配列を作製した。ピラミッドは熱酸化とその後の酸化膜剥離により先鋭化し、ピラミッド先端からの電子放出特性を超高真空中で評価した。基板の電気伝導型とピラミッド先端の電気伝導型は、走査型マクスウェル応力顕微鏡を用いた表面電位の測定により同定した。全ての電気伝導型とドーパントイオン照射の場合でも、良好な電界放出特性を示したが、特にp型基板にドナーイオンを注入して作製したナノピラミッドにおいて、高い時間安定性を得た。これは、ピラミッド先端に形成されるP/N接合界面の空乏層中における熱的なキャリア生成が、ピラミッド形状や先端の仕事関数の影響による素子ごとの特性のばらつきを自発的に制御するためであると考えられる。したがって、基板の電気伝導型やドーパントイオン種に依存せずに、自己整合的に一括で作製できる我々のプロセスは、従来のシリコン微小電子源作製プロセスと比較して、スループットの観点から優れていると結論できる。

(2) 4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)を用いたシリコンナノピラミッド配列の作製
これまでは、シリコンの異方性エッチングにヒドラジン一水和物を用いていたが、この溶液は発がん性を有し、爆発性の観点からも危険性が高い。そこで、人体や環境への影響が少ない4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)を用いて、シリコンのイオン照射減速エッチング現象を調査した。イオン照射したSi(100)基板を80度、2.38%のTMAH(NMD-3)を用いてエッチングしたところ、イオン照射減速エッチング現象を確認できた。すなわち、未照射領域のエッチレートに対し、照射領域のエッチレートが著しく低下し、エッチングマスクとして機能することが分かった。なお、照射するイオンとして、リン、ホウ素およびアルゴンのいずれにおいても、有効なイオン照射減速エッチング現象が確認できた。ただし、TMAHの有するエッチングレートの面方位依存性から、{100}に対する{111}面のエッチレート選択比がヒドラジン一水和物より低く、異方性エッチングすると構造にアンダーカットが生じることが分かった。TMAHの有するこれらの性質を利用すると、ナノスケールのテーブル構造を制御よく作製できる。

(3) TMAHを用いた3極管構造の作製
(2)の結果、TMAH中におけるイオン照射減速エッチング現象を用いて、シリコンナノテーブル配列を作製し、この形状を有効に利用して引出し電極を有するシリコン微小電子源を完成した。プロセスは、以下のステップから構成される。
①イオン注入を用いて、Si(100)表面に配列状にイオン照射損傷を導入する。
②損傷領域をマスクとして、TMAH中でシリコン減速エッチング現象を利用して、ナノテーブル配列を作製する。
③熱酸化により、テーブルの先鋭化と引出し電極下の絶縁膜(熱酸化膜)を成長させる。
④引出し電極として、ニオブを堆積する。
⑤フッ酸を用いて、テーブル部分を選択的にリフトオフし、3極管構造を作製する。
このプロセスは、マスク合わせを全く用いずに、自己整合的に引出し電極を有する3極管構造を作製でき、作製された微小電子源は現在最小のものである。引出し電極と、尖鋭な電子源を近接できることから、低閾値電圧での電子放出を期待できる。加えて、イオン注入がピラミッド先端の電気伝導型制御とナノテーブル構造作製の両方の役割を果たし、熱酸化がテーブルの先鋭化、ドーパントイオンの活性化および絶縁層堆積を兼ねるため、従来のプロセスよりプロセスステップ数を大幅に削減することが可能である。加えて、プロセス全体にわたって、ドライエッチングではなくウェットエッチングのみを採用していることから、ウェハスケールかつ低コストで製造できる点に特長がある。

(1)から(3)に示すように、本研究を通じて、従来のプロセスより有利なプロセスを開発し、現在報告されている中でも最も微細な微小電子源配列を完成した。