表題番号:2001A-839 日付:2002/05/10
研究課題子供の割合観念の獲得における、自己組織化のメカニズムの発達的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 中垣 啓
研究成果概要
 割合観念の獲得における自己組織化のメカニズムをくじびき課題を用いて調べた(くじ引き課題というのは、当たりとはずれをいくつかずつ含む袋を二つ用意し、いずれかの袋からくじを一回引く場合、どちらの袋からくじを引いた方が得かどうかを判断させる課題である)。具体的には、都内の調査協力校に赴き、小学校 1,3,5年生各学年20名、合計60名の被験児に対して、個別的に児童に面接して臨床的にくじ引き課題を提示する個別面接方式で調査を行った。 初めに、通常式くじ引き課題で各被験者について、割合観念の到達水準を明らかにし、この結果に基づいて各被験者にとってのチャレンジ課題を、変数式割合課題、形象的布置変更課題、当たり外れ変更課題、割合等化課題などを用いて提出し、割合観念に関する被験者の自己組織化の可能性を調べた。
 以上のような調査から次のような知見が得られた。第1の知見は、自己組織化をリアルタイムで誘発させることはなかなか困難であり、散発的な向上反応はしばしば観察することができたものの、それを安定的に維持することは多くの場合難しかった。
 第2の知見は、被験者が安定的な自己組織化を示した場合、その変化の多くは割合観念に関する認知システムにおける下位システムの再体制化であって、上位システムにおける自己組織化は稀であった。
 第3の知見は、調査者にとって自己組織化を図る上で特に困難が感じられたのは、第一に、割合判断における差異方略と倍数方略が同じ被験者に共存している場合、差異方略を放棄して倍数方略を一貫して使用するように仕向けること、第2に、変数式課題などで小さな攪乱要因に対しては妥当な方略を採りうる被験者に対して、攪乱要因を大きくしていっても、同じ方略を適用し認知システムの均衡を維持させることであった。