表題番号:2001A-818 日付:2002/04/27
研究課題カント倫理学成立史の再検討―「誠実」概念を手がかりとして―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 専任講師 御子柴 善之
研究成果概要
 標記の研究を遂行するために私が本年採用した方法は、アカデミー版カント
全集第27巻所収の道徳哲学講義(カントの講義録の中の道徳哲学の部分)、
ならびにそれに関する二次文献を検討することだった。中でも「コリンズ道徳
哲学」の内容の検討を中心においた。なぜなら、この講義録がいったいカント
倫理学成立史のどのあたりに位置するかに関して、今日、新たな論争状況が生
まれているからである。
 コリンズ道徳哲学はテキストとしても多くの問題を含んでいるが、思想的に
見ても、成熟したカントの「批判」倫理学に届いていない。すなわち、形式主
義を積極的に採用した定言命法の定式化も見出されなければ、それに伴うはず
の「善悪規定の方法の逆説」も、また『実践理性批判』にみられるような「動
機」の捉え直しも見られない。本研究の中心概念である「誠実」も「他人に対
する義務」として語られるのみである。
 したがって、コリンズ道徳哲学を1780年代後半のものとするアディッケ
スには賛成できない。しかし、他方で、カント倫理学は60年代に成立してい
たというヘンリッヒ、シュムッカーの見解にも賛成できない。メンツァー、キ
ューエンブルク、そしてシュヴァイガーによる文献的研究の成果が、件の講義
を74年から77年に間の講義に由来するものと考えていることを、私は積極
的に支持したい。
 ここに、コリンズ道徳哲学を中心にした本研究の重要性も明らかになる。な
ぜなら、上記の70年代後半は、カントのいわゆる「沈黙の十年」の時期であ
り、この時期の彼の思索がどのような段階にあったかの示唆が、この研究から
得られるからである。この方面をこれから研究し続けていくことで、カント倫
理学ならびに哲学に新たな光を当てる見通しが立ったことが、本研究の成果の
中心である。