表題番号:2001A-620 日付:2005/03/09
研究課題スピン・アイソピン偏極を考慮した核物質に対する近似的エネルギー表式
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学総合研究センター 助教授 鷹野 正利
研究成果概要
任意にスピン偏極した中性子物質と、スピンの偏極はなく任意にアイソスピン偏極した、すなわち非対称核物質に対する近似的エネルギー表式の導出を行った。ただし2体の核力は中心力のみを仮定した。近似的エネルギー表式は状態依存の動径分布関数の汎関数として記述され、その動径分布関数を変分関数とみなして変分をとる事によりオイラー・ラグランジュ方程式が導出される。これは動径分布関数の連立微積分方程式となり、それらを数値的に解く事により、具体的なエネルギー値を、密度とスピン(またはアイソスピン)偏極度の関数として得る。中性子物質に対するスピン偏極については、スピンの偏極度の増加に伴い、中性子物質のエネルギー密度が増加する、常磁性的振る舞いが見られた。これは、従来の他の多体計算法を用いた中性子物質の磁性と矛盾しない。よって、マグネターのような超強磁場を説明する可能性として示唆されている核物質の強磁性的振る舞いは期待できない事を再確認する事となった。ただし、核力の非中心力成分や3体力の効果は今後の課題として残っている。また非対称核物質については、対称核物質から陽子混在度を減少させる事により中性子物質へと変化させるにつれて、非対称核物質のエネルギーの上昇は陽子混在度の2次に比例するように見られ、この傾向は他の多体計算結果と矛盾しない。また、その2次の係数に関連する対称エネルギーも、実験値と矛盾しない値が得られた。ただし、陽子混在度が0に近い、すなわち中性子物質に近い状態では、エネルギーの上昇の割合が陽子混在度の2次よりずれる傾向も見られた。これは陽子混在度の高次の項に対応するずれの項の存在を示唆している。この高次の項の寄与を定量的に求めるためには、さらに核力を現実的にした場合の近似的エネルギー表式の導出が必要である。