表題番号:2001A-603 日付:2003/05/29
研究課題戦中期日本におけるイスラーム認識と受容に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 店田 廣文
研究成果概要
早稲田大学中央図書館の特別資料室に、「イスラム文庫」と通称されている所蔵資料がある。これは戦前のイスラームに関する調査研究機関のひとつであった大日本回教協会(1938年結成、1945年解散)が所蔵していた協会所内資料や名簿、手書き原稿、写真資料などを含んだ手書きの目録化ずみの資料と、ほとんどが未整理の同量の資料である。これまで同文庫の散発的利用はあったものの、文庫全体の吟味や分析はなされておらず、その評価も手つかずのままであった。

本研究は、戦中期の日本におけるイスラーム研究や日本とイスラーム諸国の関係史解明にとって重要である同資料の概要を把握することを第一義的な目的として開始した。まず「イスラム文庫」の内容を把握すること、ならびに同文庫をイスラーム研究者はじめ多くの研究者に公開し、利用の道を開くことを目的とした作業を行った。そのため、この早稲田大学特定課題研究助成を得て、2001年度から2002年度にかけて、現在未整理である資料の分類整理と、次いで包括的なデータベース化に取り組んだ。その成果は、以下の成果リストに記載しているように、「CD-ROM:早稲田大学図書館所蔵『イスラム文庫』目録(暫定版)、早稲田大学人間科学研究科アジア社会論研究室 店田 廣文、2003年2月28日」として、発行した。そのCD-ROMには、図書館において第一段階の整理済み資料約500点、全く未整理であった資料600点、および図書館において第一段階の整理済みの写真資料約1300点について、その概要(著者、発行元、形態、内容など)を記したエクセルデータ・ファイルを収めてある。これによって、本研究の主たる目的は達成された。

 しかし、もうひとつの課題であるイスラーム研究に関しては、この研究期間中には展開することがかなわなかった。戦中期における日本および日本人のイスラーム認識がどのようなものであったのかという課題である。戦中期のイスラームに対する関心は、軍国主義的な色彩が強かったといわれるが、その背景にはイスラームの学術的研究の意図もあったと考えることができる。しかし、その部分でいかなる成果を戦中期の研究が達成あるいは目指そうとしていたのかは未だ明らかではない。日本のイスラーム研究の科学社会学的研究を意図して、今回の研究成果である「イスラム文庫」に関するデータベースや知見をふまえ、大日本回教協会はじめ各種研究機関の活動や研究を事例として、同時期の日本におけるイスラーム研究の再評価をすることが今後の研究課題である。