表題番号:2001A-601 日付:2003/05/08
研究課題消化管運動調節に与るカハールの介在細胞の細胞組織学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 小室 輝昌
研究成果概要

 蠕動運動のペースメーカーや神経筋興奮伝達の介在機能をもつカハールの介在細胞(ICC)は、消化管の部位に固有な運動を制御していることが推定され、その解析は消化管平滑筋運動の理解の上での重要な課題である。本研究では、胃の各領域、組織層におけるICCの分布を明らかにすると共に、ICC各亜型の細胞学的特性を知るため、マウスおよびラットの胃を材料に用い、免疫組織化学的ならびに電子顕微鏡的に検索した。
 正常マウス胃の噴門、胃底、胃体重層扁平上皮部の良く発達した輪走および縦走筋層には多くのc-KIT陽性反応、即ち、ICCが観察されたが、筋層間神経叢には認められなかった。筋層間神経叢のICCは胃体腺上皮部への移行部より出現し始め、幽門部には非常に密度高く観察された。一方、gap junction 蛋白Cx43は、噴門、胃底、胃体重層扁平上皮部、幽門部を通じて、輪層筋層に散在性に弱く観察されたが、胃体腺上皮部では、高い密度で観察された。
 これらの観察より、マウス胃では、ペースメーカー機能をもつ筋層間神経叢のICCが出現する胃体腺上皮が自律的蠕動運動の起始部にあたると推定された。また、噴門、胃底、胃体重層扁平上皮部、幽門部の輪走筋層の細胞間の電気的結合度は弱く、豊富なICCが神経信号の伝達に介在するものと推定された。他方、c-kitに 突然変異のあるW/Wvマウスでは、胃の全領域を通じて筋層内のICCは欠損する傍ら、幽門部の筋層間神経叢のICCは少数観察され、ICCの亜型によってc-kit/SCF 系に対する依存性に相違のあることが明らかとなった。
 ラット胃を材料とした幽門部筋層の検索では、これまでに報告の無い縦走筋層内のICC に焦点を当て検索した。縦走筋内のICCは豊富なミトコンドリア、中間径フィラメント、カヴェオラを含み、同種細胞間、平滑筋とgap junctions を形成する点で、これまで報告されてきた輪走筋内のICC と共通する特徴もつことが示され、シナップス小胞を多量に含む神経終末と密接して観察された。他方、神経終末は平滑筋とも直接密接する像が観察されたことより、ラット胃幽門部の縦走筋は、ICCを介する間接支配と神経による直接支配との平行支配を受けるものと推定された。