表題番号:2001A-600 日付:2003/05/08
研究課題鳥類初期胚体節の培養系を用いた骨格筋の発生と分化の制御機構に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 木村 一郎
研究成果概要
 脊椎動物の骨格筋は体節に由来する。しかし,体節の筋前駆細胞の発生と分化がどのような機構により制御されているかについては,詳細は不明である。我々はニワトリ初期胚より採取した体節の培養系というこれまでほとんど試みられたことのない実験系を用いて,そこに存在する筋前駆細胞の発生について,その増殖と分化,さらにその移動において重要な役割を果たしていると考えられている肝細胞成長因子/分散因子(HGF/SF)の作用に注目して調べた。
 我々は先ず体節の筋前駆細胞群の分散がHGF/SFにより著しく促進されることをビデオ撮影/タイムラプス法等で確認した。すなわち,体節辺縁から遊出した細胞群中の筋前駆細胞は,HGF/SFの作用を受けるとその運動性がきわめて高められることが示された。また,培養細胞と全胚におけるHGF/SFとその受容体であるC-METの発現について免疫染色した結果から,HGF/SFの作用にはオートクライン/パラクライン機構が関与していることが示唆された。さらに,筋特異タンパク質やPCNAの免疫染色の結果から,筋前駆細胞はHGF/SFにより増殖が促進され,分化が抑制されるらしいことも示唆された。カドヘリンの免疫染色の結果から筋前駆細胞間の接着が緩められることも確認された。また,このようなHGF/SFにより培養体節組織中の筋前駆細胞の分散・移動が亢進されることを確認する中で,これら分散した筋前駆細胞群の中には,その挙動,形態的な特徴などから,HGF/SFに対して強い走化性を示す細胞集団が存在することが強く示唆された。in vitro で筋前駆細胞の走化性が示唆されたのは本研究が初めてであり,古くから大きな関心を持たれてきた筋原細胞の移動の機構の解析において,我々の‘初期胚体節培養系’はきわめて有望なものであると思われる。
 現在我々は細胞移動の程度の定量化と低濃度のHGF/SFを結合させたビーズを用いての培養系においてHGF/SFのシグナルに濃度勾配を形成させることなどを試みており,静置した体節組織から分散,遊走してくる筋前駆細胞の移動におけるHGF/SF走化性を再確認する結果を得ている。