表題番号:2001A-598 日付:2003/05/09
研究課題活力あるロシア民営企業の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 辻 義昌
研究成果概要
当初の研究対象はロシアにおけるスモールビジネス(SB)の設立動向とそのパフォーマンスの調査であった。SBについては早くも1994年に小企業支援委員会が設立され、国家による保護と育成が公的に確認された。 1995年には小企業支援法が制定され、小企業に対するさまざまな保護育成策の根拠となった。2001年には小企業に対し課税を簡素化する法律が通過した。
しかしながら、今までのところロシアにおけるSBは期待されたほど成長していない。その原因は企業活動に対する許認可制度(すべての業種について事細かい規定がある)、面倒な法人登記制度などだけにあるわけではない。実際,90年代に登場したSBのかなりの大部分は大企業が政府や地方政府から援助を得たり,節税するために設立したものであるといわれているし、許認可や登記については専門の代行屋がすぐさま登場しているからである。SBといえどもそれなりの原始的蓄積を必要とするし、経常的支出のためには銀行からの支援が不可欠であるが,これは今なお絶望的に不足している。
調査の過程で新たに着目するに至ったのは「法人格なき個人企業」であった。個人による経済活動の自由は90年代の初めから合法的であったが,行政による対応は全くなかったため、たとえば国家統計委員会の調査対象からは2000年まですっぽり抜け落ちたままであった。2003年1月現在、全ロシアの小売業における小企業の比重は51%、小売業における小企業の数は約140万とされている。全産業では法人のSBは88万だが、個人企業を含めると550万に達する。
法人のSBはむしろ減少傾向にあるのに対し,個人企業は猛烈な勢いで成長しつつある。それはロシアの街角に林立するおびただしい数のキオスク、次々と建設される屋根つきの市場,個人商店をみれば一目瞭然である。従来、いまだに改革以前の経済水準に復帰できていないという主張がまことしやかに唱えられているが,自由経済になって解放された個人の経済活動がまったく計算外に置かれており、この分野の比重が増えるにつれ、あたかも売上高や雇用者数が減少したかのような外観をていしたからである。
個人企業は小売業だけでなく、歯医者・美容院といった隆盛しているサービス産業を支えており、国家的支援や金融インフラの整備なしに力強く成長している。しかしながら、製造業における個人企業の成長はいまだ極端に未発達(食品加工のような消費者に近いところに限定される)である。製造業でのSBの可能性は小さいので,当面は小売業とサービス産業(情報産業,不動産業などを含む)という急成長中の産業に注目していきたい。なお、法人格なき個人企業にも大きな企業が存在することを指摘したい。