表題番号:2001A-581 日付:2003/10/29
研究課題クラスター内部自由度の理論的評価に基づく反応設計
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 中井 浩巳
研究成果概要
本研究では、衝突や励起によって引き起こされるクラスター内部自由度の変化を理論的に評価することにより、それに伴う化学反応を解明・予測・設計することを目指した。具体的には、(1)アンモニアクラスターイオンの衝突反応と(2)ソラレン化合物のDNA光付加反応を検討した。(1)については、理研のグループにより、サイズ選別したアンモニアクラスターイオンと重水素化したアンモニアモノマーの衝突実験が報告されている。さらに、吸着および分解過程に対する反応断面積の衝突エネルギーおよびクラスターサイズ依存性も報告されている。そこで本研究では、衝突過程のAb Initio Molecular Dynamics (AIMD)シミュレーションを行い、その結果から分子衝突と化学反応性の関連を検討した。衝突反応の初期条件を変化させたトラジェクトリーを走らせ、その結果から吸着・分解・非反応性衝突・非衝突を判断した。この結果を統計処理することにより得られた反応断面積は、まずまず実験値を再現した。さらに、吸着と分解を導く場合では、衝突サイトには系統的な違いがあることが初めて示された。(2)では、乾癬などの皮膚病に対する光療法の薬として用いられるソラレン化合物を扱った。ソラレン化合物単体での励起状態ダイナミックスを調べる目的で、励起三重項状態におけるAIMDシミュレーションを行った。その結果、無置換ソラレンや5-メトキシソラレン(5-MOP)には見られなかったピロン環の開環が、8-メトキシソラレン(8-MOP)で起こることが初めて明らかとなった。この開環構造は、DNAにフラン環側で付加した場合にも見られ、2段階目の付加反応が抑制されていることがわかる。実際、DNAへのモノ付加体は治療効果があるが、ジ付加体は結合が強固なためDNAが再生されにくく副作用があると考えられている。本研究の結果を踏まえると、8-MOPは副作用という点では最も優れた薬であると判断される。