表題番号:2001A-580 日付:2003/02/28
研究課題水環境浄化に寄与するバクテリアの環境適応機構の解明と促進化技術の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 常田 聡
研究成果概要
 微生物を利用した廃水処理においては,微生物の機能をいかにして向上させるかは重要なテーマである。我々は,廃水処理プロセスにおいて汎用的に行なわれている「馴養」と呼ばれる操作に着目した。馴養とは,微生物を一定期間同一条件下に置くことで,微生物をその環境に馴らし,機能向上を行う操作のことである。本研究では,廃水処理プロセス中から耐塩性脱窒細菌を単離,培養し,高塩濃度環境への馴化を試み,さらにそのメカニズムを明らかにすることをめざした。
 まず,解析モデルとなる耐塩性脱窒細菌の単離・培養を試みた。無機塩類および硝酸を高濃度に含む製錬廃水を処理しているリアクターの嫌気層から種汚泥を採取し,約8%のNaClを含む寒天プレート上にコロニーを形成させた。得られたコロニーを採取し,液体培地中で静置培養した。液体培地中で気体の発生が見られたものについては,集積培養を行って単離した。その結果,耐塩性脱窒細菌を単離することに成功した。16SrDNAによる系統解析から,この単離菌は,Bacillus halodenitrificans の近縁種であることがわかった。
 単離した脱窒細菌を用いて,高塩濃度条件下(NaCl濃度約16%)で長期馴養を行った。その後,高塩濃度条件下で長期馴養を行った系と行わなかった系とで脱窒活性の比較をした。その結果,高塩濃度条件下で長期馴養を行った場合のみ高塩濃度条件下で脱窒活性の向上が見られた。
 最後に,二次元電気泳動により馴養株と非馴養株の発現タンパク質について調べたところ,馴養前後で異なるタンパク質発現が確認された。馴養によってタンパク質発現レベルでの変化が起こり得ることが示唆され,馴養が微生物群集構造の変化以外にも影響を及ぼすことがわかった。