表題番号:2001A-579 日付:2003/05/09
研究課題生理不活性な合成脂質を利用した新しいヘモグロビン小胞体の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 武岡 真司
研究成果概要
高濃度Hbをリン脂質二分子膜にて内包したヘモグロビン小胞体を人工赤血球として研究開発している。リン脂質としては、両イオン性のホスファチジルコリン型脂質、アニオン性ホスファチジルグリセロール型脂質、ポリエチレングリコール(PEG)結合ホスファチジルエタノールアミン型脂質の混合体を用いているが、特にアニオン性脂質による血小板や白血球の活性化が課題となっていた。本特定課題研究では、ジアルキル L-グルタメートを基本骨格とし、これに無水コハク酸をアミド結合させたアニオン性グルタミン酸型脂質や、片末端をカルボン酸としたPEGを結合させたPEG結合グルタミン酸型脂質、更にはグルタミン酸をα位やγ位を選択的に結合させた両イオン性脂質を合成した。これらを混合してヘモグロビン小胞体を調製し、血液適合性を検討した結果、以下の知見を得た。
(1) グルタミン酸型脂質は簡便合成可能で、対応するリン脂質の置き換えが可能であった。
(2) アニオン性の新規グルタミン酸型脂質脂質は血小板の活性化を全く認めず、従来のホスファチジルグリセロール型脂質を使用による副作用を解決できた。
(3) 従来のポリエチレングリコール(PEG)結合ホスファチジルエタノールアミン型脂質は、白血球、特に好中球の活性化を認めたが、新規のPEG結合グルタミン酸型脂質では白血球の活性化が認められなかった。
(4) 両イオン性のグルタミン酸型脂質では、α位とγ位の結合で分子集合挙動には大きな相違が認められ、前者では単独で小胞体構造、後者では単独でリボン状構造が形成された。コレステロールとの混合により両者とも小胞体構造を形成するものの、前者の方が安定であった。しかし、前者の場合、白血球数の増減に影響が認めれられた。
結論として、アニオン性脂質、PEG結合性脂質を新規のグルタミン酸型脂質に置換することに成功したが、両イオン性の脂質には更なる分子設計が必要と思われた。恐らく、コレステロールとの配置を考慮してグルタミン酸とグルタミン酸との間に何らかのスペーサーが必要であると推測される。今回の研究成果により非常に安価なグルタミン酸型脂質により高価なリン脂質の代替と、それによる血液適合性の向上が実現でき、リポソーム製剤の安定度向上に対して大きな進展となった。