表題番号:2001A-569 日付:2004/11/06
研究課題自己重力系の統計力学と宇宙の構造形成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 前田 恵一
研究成果概要
本研究では,非線形物理学の観点から,重力多体系の動的性質について考察した.具体的には、次の二種類のモデルを詳しく解析した.
1.まず背景時空は平坦な宇宙であるとして,その中で多くの一次元シートがニュートン重力によって相互作用を及ぼすモデルを解析し,宇宙で観測されるフラクタル構造の起源をさぐった.このシートモデルは解が解析的に記述できるため,長時間の発展を追う事ができる.膨張入りのシートモデルで初期密度ゆらぎをフラクタル的にした場合には,十分に時間が経過した後に非線形なフラクタル構造が形成されるが,そのフラクタル次元は,初期ゆらぎのフラクタル次元によらずほぼ普遍的な次元0.9に収束することがわかった.この普遍性は重力の長距離相互作用を反映したものと考えられる.また,このフラクタル構造は相空間にも特徴を持つ.自己重力により形成された構造はその相空間では渦巻き状の構造をすることが簡単な解析からわかるが,初期にフラクタル的揺らぎをしていると,構造形成後にはその渦巻き構造が入れ子構造をしていることがわかった.この成果を用いると,実際の観測データの解析により密度揺らぎの起源を特定化できる可能性を与える点で注目に値する.
2.もう一つのモデルとして,三次元重力の特徴を備えた簡単なモデルを考案した.三次元重力と同じ形の相互作用を及ぼしあう多くの粒子を一次元リングに拘束したモデル(リングモデル)で,このモデルでは特定のエネルギー範囲では比熱が負になり,粒子が密集したコア層の周囲に特異な振る舞いを示すハロー粒子が取り巻くという,三次元重力の特徴が現れる.重力の特徴を解析する上で,このリングモデルは少ない計算量で高い解像度を得る事ができ,フラクタル構造が形成されるかどうかを調べる場合にも有用と考えられる.このモデルを詳細に解析した結果,非ガウス的な速度分布や粒子分布のスケーリング則の起源がガス層とコア層を行き来するハロー粒子の存在にあることを明らかにした.
以上の研究により,重力などの長距離相互作用が働く多体系における統計的性質の重要な一面(つまり,フラクタル構造やその次元及び非ガウス的分布など重力多体系において特有に現れる普遍的性質)が明らかにされた.