表題番号:2001A-564 日付:2003/05/10
研究課題ハードウェアの自己増殖のメカニズムと環境条件に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 橋本 周司
研究成果概要
 ソフトウエアによる自己複製や自己増殖については、すでに多くの研究があるが、ハードウエアの自己増殖についての報告は少ない。ここでは、実世界でのハードウエア自己増殖の可能性を理論的に検討するとともに、自己増殖の基本となるハードウエアの自己組織化について実験的な研究を行った。特に、詳細な個別制御ではなく環境パラメータによる全体的な制御のみで自己組織化を実現する具体的なメカニズムの検討と実験を行った。 
 自己組織化が実現するには次の条件が必要である。ⅰ)希望する最終状態が系のフリーエネルギが最小の状態となるようにしなければならない。ⅱ)適度な時間内に組立が完了するために、何らかのエネルギを外部から供給しなければならない。そこで、構成パーツの自己集合加振することによってランダムな運動エネルギーを与え、パーツをストック台に自己配列させ、パーツを部分的に正負に帯電させ、その後パーツを自己集合させる実験を行った。さらに、その応用として、円柱パーツを穴のあいた基板に自己配列させ、穴の下に交差するように電流を流して、回転磁場によって選択的に駆動する分布型のマイクロモータの作製を試みた。
 まず、単純な形状のパーツを多数の穴を明けた板の上に散布して、部品を穴にはめ込み配列させる実験を行った。スピーカまたは振動モータを用いて振動を徐々に収束させてはめ込みの成功率(収率)を調べた。部品はセラミック球(φ;0.2、0.5、1.0、2.0mm)と鉄柱(h;1.0mm、φ;0.2mm)としたが、セラミック球はサイズが小さくなるにつれて表面力の影響が大きくなり穴に入り難くなった。鉄柱は球ほど収率はよくないが比較的よく配列した。しかし部品同士が付着して同じ穴にはいってしまうものもあり改良の余地があると思われる。次に、鉄柱部品をはめ込んだまま磁化して、外部からの電流磁場によりこれを回転させる分布型モータを試作した。その結果、穴の中の摩擦を減ずるために水を注入し表面張力によって支持すれば、電流1A程度で回転することが確認できた。また、電流の周期を変えることにより回転数の制御も可能であった。
 以上の実験から、系のエネルギーが最小になる方向に結合が進むことを利用して目的の構造を組み立てることが可能であることが判った。実際のシステムは多種多様な部品からなる複雑な構造をしていることから、結合の選択性の量と質が重要と考えられる。選択性の量とは選択的に結合する組の数であり、質というのは選択的に結合する確率である。そこで、複雑な構造の形成を実現する前段階として、限られた種類のパーツを用いた自律的な組立の研究を現在行っている。具体的には多面体のコンポーネントを部品と見立て、結合部分に低融点半田を付着させ、それらのパーツを外部からのランダムな力で揺動することによって半田の表面張力で目的の構造に組み立てる実験を行っている。また、その中で選択性を高めるためにコンポーネントや結合部分のデザインによる選択性の向上やその他の選択的結合力についても検討している。この手法では、半田によって機械的、電気的な結合が実現し、通常のマニピュレータによる組立では為し得ない3次元的な電気回路の作製等に応用できると考えられる。