表題番号:2001A-562 日付:2003/03/17
研究課題マイクロ波誘電分光法による生体関連物質水溶液のダイナミック構造
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 千葉 明夫
研究成果概要
(A)活性化エンタルピー、エントロピーの過剰部分モル量を定量的に分離・評価する独自の解析法(the Excess Partial molar Activation Quantity=EPAQ approach)を用い、水/メタノール、水/エタノール、水/2-プロパノール系、水/1-プロパノール系の結果の比較から、疎水基のサイズと形状と水素結合液体のダイナミクスの関連について詳細な情報を得た。水素結合ネットワークの組換えを阻害するアルコール疎水基による局所的な水分子の密度低下のみでなく、アルコールOH基が次の水素結合パートナーを得る確率に関係する、疎水基の立体障害効果が水素結合の再配列ダイナミクスに重要な役割を果たすことを示した。
(B)生体物質の機能を水との相互作用の観点から明らかにする基礎として行った、Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Ser、Thr、Pro、Cys、Metの10種のアミノ酸水溶液の研究では、アミノ酸分子の回転拡散(j=1)、バルク水の共同運動(j=2)、水単分子の回転(j=3)、に関する3つの緩和プロセスの存在を明らかにした。(i)純水中とアミノ酸水溶液のバルク水プロセス(j=2)のKirkwoodファクターの比較による、アミノ酸との相互作用によって外部電場に対する配向が凍結したかに見える溶質1個当たりの水分子の数=「実効水和水Z」の見積り、(ii) アミノ酸分子の回転拡散(j=1)プロセスの緩和強度からのアミノ酸の双性イオンの気相ダイポールモーメントμGの定量的な計算、により、(i)アミノ酸の側鎖グループの疎水性の増加と共に実効水和数Zが急激に増加するが、疎水性の高いアミノ酸では濃度の増加と共にZは急激に減少し、アミノ酸疎水基の急激な会合を示唆する。(ii)μG(~12-13D)はアミノ酸の濃度によらず、ほぼ一定であり、高濃度域においてもアミノ酸のダイポール-ダイポール回転相関は無視できる。という驚くべき結果を得た。
(C)電解質高分子であるカラギーナンの水溶液中において、カウンターイオンの高分子鎖への束縛とゲルの架橋構造との関係に注目し、導電性による測定精度の低下を改善する誘電率測定装置を開発し、ポリマーの軸と平行及び垂直方向へのイオンの揺らぎに帰属される、kHz及びMHz領域に誘電緩和を観測した。前者は低温のへリックス状態のみで巨大な緩和強度が観測され、コイルへリックス転移による軸に沿った線電荷密度の増大と、そのイオン選択性を、誘電緩和測定から確認した。