表題番号:2001A-561 日付:2003/04/28
研究課題In vivo ラマン分光法開発のための基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 高橋 博彰
研究成果概要
本研究の目的は、ラマン分光法から得られる生体物質の分子構造に関する豊富な知見を、疾病、とりわけ臓器や器官のガン化等の早期診断に役立てるために,生体内の臓器・器官のラマンスペクトルをin vivo (生体内)で、苦痛や危険を与えることなく、実時間で迅速に測定できるラマン分光法を開発する事を最終目的とし,そのためのハードおよびソフト面での基礎的研究を行うことである。科研費が不採択であったため、ハード面の研究は行わず、ソフト面のみの基礎研究を行った。特に、紫外光照射による人体への影響として、光毒性、光アレルギー性、光によるガン化の問題を中心に、時間分解ラマンスペクトルおよび時間分解吸収スペクトルによる研究を行った。
(1)ソラーレンおよびその誘導体の光化学:乾癬や白癜風の治療に、ソラーレン誘導体を患部に塗布した後、紫外光を照射する光化学療法がある。この療法の生理学的作用はソラーレンがDNAの二重らせんを保持している塩基対の間に入り込み、二本のらせん間に共有結合の橋を形成して、DNAを不活性化するとする説が有力である。この時の反応の機構を明らかにすることを目指した。また、この治療法には皮膚ガンの危険性や、光増感による色素沈着などの副作用も報告されている。この副作用の機構も調べた。我々は、ソラーレン(PS)、5-メトキシソラーレン(5-MOP)、8-メトキシソラーレン(8-MOP)についてT1状態およびラジカルアニオンの共鳴ラマンスペクトルおよび過渡吸収を測定し、置換基の有無や位置の違いによりスペクトルの溶媒依存性が大きく異なることを明らかにした。
(2)クロルプロマジンおよびフェノチアジン誘導体の光化学反応:トランキライザーとして重要なクロルプロマジンの光毒性・光アレルギー性の機構を明らかにするために、クロルプロマジンおよびフェノチアジン誘導体の光化学反応を、ナノ秒時間分解吸収およびナノ秒時間分解ラマン分光により研究した。クロルプロマジンでは光励起により最低励起三重項状態T1とカチオンラジカルの他に、もう二種類の過渡分子種XとYが生成することを明らかにした。XはT1から生成し、YはXより生成する。Xは塩素を置換基としてもたないプロマジンやフェノチアジンでは生成しないことから、Xは塩素がとれたラジカルである可能性があり、プロマジンの光毒性・光アレルギー性がこのラジカルによって引き起こされる可能性が高いことを示した。