表題番号:2001A-559 日付:2004/11/25
研究課題刺激により親和力を変化する酸素運動体を用いた人工えらの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 酒井 清孝
研究成果概要
 温度変化により酸素親和力が変化する酸素キャリア液であるInositol hexaphosphate (IHP)添加濃縮ヘモグロビン溶液を開発した。また、開発した酸素キャリア液を用いて小さい装置体積でヒトの呼吸に十分な酸素を供給する人工えらを開発した。 
 通常のヘモグロビン溶液では、温度変化を与えても酸素親和力の変化は少なく、ヘモグロビン−酸素間の結合を温度により制御することは難しい。そこで、ウシへモグロビン溶液にアロステリック効果剤であるIHPを作用させることで、大きな温度応答性を持たせることに成功した。これにより、海水温度とヘモグロビンの熱変性とを考慮した293 Kから310 Kへの温度変化により、海水から酸素キャリア液への酸素吸収、酸素キャリア液から呼気ガスへの酸素放散の制御が可能になった。
 このIHP添加ヘモグロビン溶液を、酸素を運搬する酸素キャリア液として装置内を循環させる人工えらシステムを構築した。はじめに、海水から酸素キャリア液に酸素を293 Kで吸収し、酸素キャリア液を310 Kに加温し、酸素を呼気ガスへと放散することで酸素移動を促進した。酸素キャリア液の性能を示す反応係数は、酸素吸収部では3前後、酸素放散部では16前後の値を示した。また、人工えらのガス交換モジュールとして最適な中空糸配列を求めた。これらの結果を用いて、ヒトの安静時の呼吸に必要な酸素量を供給する人工鰓のスケールアップをおこない、最適操作条件を決定した。その結果、必用膜面積63.8 m2であり、吸気酸素分圧20.7 kPaであった。これらより、ヒトの呼吸に十分な酸素を供給する携帯可能な小型人工鰓の開発が可能である。