表題番号:2001A-542 日付:2003/05/10
研究課題金融資産・金融負債の評価-全面時価評価論の台頭への道程
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 教授 大塚 宗春
研究成果概要
金融商品の会計をめぐっては、1990年代の後半になって、急速にわが国をはじめ世界的に会計基準の整備が進められてきた。大きな流れとしては、時価評価の考え方を大幅に導入しつつ、保有目的別に異なる会計処理を行う考え方に議論が収斂してきた用に思われる。他方で、金融商品会計の次の段階を模索する動きも加速しており、2000年12月には、主要各国の会計基準設定主体によって構成される共同作業部会( Joint Working Group of
Standard-Setters;JWG)によって、原則としてすべての金融商品を時価評価してその評価損益を損益計算書に計上する提案が行なわれているところである。今後数年間の展開として、現在の保有目的の会計処理を維持していくのか、それとも全面的な時価評価論へ座標軸を移していくのか、金融商品会計は非常に重大な転換期を迎えていると思われる。本研究は、わが国における金融商品の評価基準の歴史を顧みることにより、この問題について新たな知見を見出そうとするものである。
 わが国の戦後の金融商品の会計基準をみると、有価証券と金銭債権を中心に議論されてきた。有価証券については、昭和13年の商法改正で示された時価以下主義が戦後昭和37年の商法改正まで続いた。戦後新たに設定された企業会計原則で有価証券については時価以下主義の考え方がとられたがこの背後にある考え方と1990年代において進展してきた金融商品の時価会計とは同じものなのか、それとも基本的に違うものなのか、どこに違いがあるのか。会計は経済活動を反映するものであるとすると、その違いはどこにあるのか。
 昭和38年の企業会計原則の修正で金融商品も原則として原価評価が採られることになるが、その際有価証券の評価基準についてどのような議論がされたのか。1990年代に入って、原価評価一辺倒から保有目的に応じて金融商品に時価評価が導入されてきたが、その際の議論は、1980年代のインフレ時に貨幣価値変動会計として提案された会計とは本質的に異質のものである。保有目的別会計を進めて、金融商品全面時価評価論が提唱されているが、保有目的別会計との一番大きな違いは金融負債を時価評価することである。負債の時価評価の現実性はあるのか、会計が企業活動を写像するという点から金融商品全面時価評価は必要であるのか、いくつかの検討すべき点が残る。全面時価評価のメリット・デメリットをきちんと議論しておく必要があると思われる。全面時価評価では公正価値変動リスクは捉えられるが、キャッシュ・フロー変動リスクは無視されている。また、投資家の意思決定にとってどちらの情報がより有用であるのかといった点からの理論研究のみならず実証研究が更に必要である。この点での研究はいまだ十分であるとは言えない。