表題番号:2001A-534 日付:2008/03/20
研究課題見る行為の構成と社会的変遷
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 北澤 裕
研究成果概要
本研究では、コンピュータのスクリーンやディスプレイ上に示される人工的に加工された視覚映像、つまり、実際には存在しないけれども、現実と見紛うまでの実感を生み出す「ヴァーチャル・リアリティ」を取り上げ、その社会歴史的な変遷、実際に現実を見る行為との関連や特徴、および自己や自我の構成に対する影響を分析の課題としている。ヴァーチャル・リアリティの歴史を「カメラ・オブスクーラ」によって開始される「視覚のヴァーチャライゼーション」の過程として取り扱い、この装置がデカルト的コギトとしての近代的自我を崩壊させるきっかけを与えたことからをまず取りかかった。さらに、このカメラ・オブスクーラを原理とする写真が、主体と客体、人工と自然、表象と現実の融解を引き起こし、最終的に、写真を利用し三次元の立体視を可能とする19世紀の「ステレオスコープ」による身体補綴が、人工空間への人間の融解的没入をもたらし、見ることにおける人間主体の優位性を破壊する役割を果たしたものとして考察を行った。現在のデジタルコンピュータが構成するヴァーチャル・リアリティは、この視覚のヴァーチャライゼーションの過程の延長線上に置かれ、デカルトの独我的な近代主体を徹底的に破壊することで成立しているといえる。すなわち、サイバー・スペースの中で繰り広げられるヴァーチャル・リアリティは、コンピュータと人間の両者の境界が、フィールドバック・ループにより融解し絡み合い内破するバイオモルフ的世界制作であり、反対のものへの憧れや相互浸透としての主体と客体との融合や交感であるとみなすことができ、これを「他性への思慕」が生み出す「崇高性」として規定した。このような崇高性のもとで、人は、自己をテクノロジカルに変容、偽装し、多様性と分身化をはかり、不連続でノマディックな自我を生み出すことになる。また、ヴァーチャル・リアリティを「擬似境界状況(リミノイド)」として捉えることもでき、この場合にも、サイバー・カルト「ヘブンズ・ゲイト」の例に見られるように、カーニバル化されるリミノイドにおいて、自我は「脱歴史化」され「ナルシシズム的私性」を宿すことになる。以上の内容を『ヴァーチャルな文化の視覚と自我-デカルトの墜落-』として論文にまとめた。また、視覚のヴァーチャライゼーションと自我との関係をさらに捉えるため、「パノラマ」と「視覚」を分析した論文『パノラマヴィジョン』を執筆した。