表題番号:2001A-525 日付:2003/06/22
研究課題運動の計算理論を背景とする書字運動のfMRI研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 第一文学部 教授 福沢 一吉
研究成果概要
【はじめに】健常者の矢状断面における手先の往復運動軌道を実測すると、ゆっくりした運動の時には手先が高くなり、早い運動の時には手先の高さが低くなることが知られている(Wada,Aiba and Fukuzawa, 2000)。このことは本研究の計算理論的基礎であるトルク変化最小規範から数学的に演繹可能な事象である。一方、頭頂葉損傷のある失書患者が同運動を行うと、健常者とは異なり、腕の運動速度が上昇しても、手先の高さが低くならないことが報告されている(Tsunoda. Et al. 2003)。このことは頭頂葉(または頭頂葉を含む領域)が運動速度に伴って手先の高さを調整する機能(関節に発生するトルクを最小に保とうとする機能)に関与しており、頭頂葉損傷例ではその機能に何らかの問題があることを示唆している。【目的】本研究ではこれらの先行研究を背景に、腕の往復運動の変化に伴い活性する脳内の部位をfMRI(機能的磁気共鳴画像)を用いて同定することを目的とした。【被験者】03年5月の時点で大学生2名【fMRIによる運動計測】計測する運動は2点間を行き来する単純な手の往復運動の繰り返しである。LEDを被験者の手に装着しオプトトラックで3次元運動軌道を計測しながら、同時にfMRI信号を計測した。運動速度は普通を中心に普通より速い運動、普通より遅い運動とし、1セット20秒間の往復運動として行った。【画像分析】本報告では1例に見られた結果を報告する。結果の解析は以下の手順で行った。①普通の速度での運動時に得られるfMRI信号をbaseline measurementとした。次いで、②遅い速度での運動時に得られる同信号、③速い(fast)速度での運動時に得られる同信号のそれぞれを①との差分として表現した。また、運動速度と運動時の手先の高さをregressorとし、これらのregressorと相関高く活性する部位を検出した。【結果・考察】遅い運動において活性する脳部位は両側の前頭葉、右頭頂葉、速い運動では右頭頂葉、左前頭葉であった。また、手の早さにsensitiveな部位は両側前頭葉、側頭葉、手の高さにsensitiveな部位は両側の前頭葉、頭頂葉の広範な部位であった。現在のデータからはより一般的な考察は不可能であるが、右手の運動(左半球の制御)であっても、その速度の制御(またはトルクの制御)には右半球の関与が示唆された点が重要であると思われる。