表題番号:2001A-517 日付:2004/11/07
研究課題私法による都市計画の今日的意義に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 専任講師 秋山 靖浩
研究成果概要
 本研究は、相隣関係における土地利用の調整システム――一般には古典的な手法とみなされている――がなお現在においても街づくりに密接に関わりうるのではないかという問題意識の下、街づくりにおいて既に重要な役割を果たしている建築法規(建築基準法などの建築規制法制と都市計画法などの都市計画法制)とかかる調整システムがどのような関係に立つのか、を目的とする。調査の過程で、ドイツ法における民法上の囲繞地通行権と建設法との関係が興味深いテーマであることは判明したので、特にこの点をについて詳しく検討した。
 1年目では、両者の関係を取り扱う裁判例を詳しく検討した。建設法(各州の建築規制法)は建築用地が公道と接していなければならないとの規定を置いており、その規定と民法の囲繞地通行権(ドイツ民法典917条)との関係が問題とされている。裁判例から、囲繞地通行権にもとづく通路では建設法の規定をクリアーすることができないこと、したがって、公道と接続していない土地の所有者が囲繞地通行権の主張をしてもそれは認められないことが判明した。
 2年目の成果は以下の通りである。
 (1)ドイツ法の検討では、1年目で得られた知見を踏まえて、特に上記の各州の建築規制法の規定に絞ってその趣旨・解釈や民法との関係について、裁判例だけでなく学説をも検討の対象にした。その結果、以下の知見が得られた。①裁判例と同様、囲繞地通行権を接道確保の手法として積極的に活用しようとする考え方は見られないこと、②むしろ建設法における接道規制の意義は極めて重要であるから、これを軽視してはならないこと、③それゆえに、建築規制法・建設法典・建築許可という建設法における一連の構造の中で、接道の問題に対処するべきであること。
 (2)その上で、ドイツ法の知見から日本法の問題状況にどのような示唆が得られるかを検討した。①囲繞地通行権と建築基準法との関係について、最高裁判例は結論的にはドイツ法の結論と同一に帰するものの、その理由付けには疑問が多く、むしろドイツ法に倣って、建築基準法における接道規制――これには日本法においても重要な意義が付与されている――を尊重した解釈をするべきである、②建築基準法には既に、接道規制の例外制度として例外的許可(同法43条)および連担建築物設計制度(同法86条2項)が用意されているので、これらの制度を適切に運用・発展させることが、接道規制の尊重(およびその裏面としての例外の厳格な適用)という構造に適っている、③しかし、日本ではドイツと異なり、接道困難敷地がかなり残っておりその解決が重大な課題とされていることからすれば、囲繞地通行権の制度の活用を排除するべきではなく、接道規制の尊重を機軸としつつ、上記例外制度の一つとして囲繞地通行権の制度の今後の発展を展望していくべきではないか。
 以上の成果は、1年目については早稲田法学(早稲田大学法学会発行)77巻4号(2002年5月)に、2年目については同78巻2号(2003年1月)および同78巻4号(2003年6月)に、それぞれ掲載された(なお、これらの掲載論文には「特定課題の成果であること」および「課題番号」が明記されていないが、これは私の過失である。実際には本研究の成果の一部であることを、この場を借りて訂正すると共にお詫びする)。