表題番号:2001A-516 日付:2005/03/18
研究課題第二言語のアクセント習得における第一言語の干渉の音響音声学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助教授 近藤 眞理子
研究成果概要
 本研究は第一言語が第二言語の韻律、特に発話リズムとアクセントの習得にどのような影響を与えるかを実験・調査研究したものである。2001年4月に研究計画書を作成した時点では、発話を中心に事象を検証していく予定であったが、その後発表された新しい文献の情報から、音声の知覚・認識の更なる検証が必要ということが判明したため、発話とあわせて、日本語話者の外国語音の連鎖の解読の仕組みも調査した。
 まず、日本語話者の韻律に関しては、モーラを基準とする時間制御の要素が圧倒的に強く現れた。日本語話者の発話実験では、フレーズのシラブル数と使われている音が同じでありながら、日本語話者が分析した場合モーラ数が異なるフランス語のフレーズの総継続時間を計った結果、日本語話者の発話ではシラブル数に関係なくモーラ数が多いフレーズ長が明らかに長くなる傾向があった。つまり日本語話者は、外国語の音の連鎖をモーラを単位として解析し、モーラ数に準じて発話長も変化することがあらためて立証された。基本周波数や母音の強度等、その他の要素には有意な差が見られなかった。
 また、英語話者のうち上級日本語発話においては、(1)モーラを単位とする時間制御ができていた話者と、(2)時間制御がうまくいっていない話者とに大別された。(1)の時間制御ができていた話者は(a) 発話のピッチレンジを英語を話しているときに比べて狭めることにより、時間制御を達成しようとしているといった傾向がみられた。(2)の時間制御がうまくできていない英語話者は(b)ピッチレンジが英語発話時と殆ど変わりがない人が多かった。つまり、英語話者にとってストレスの有無と母音長は密接な関係にあり、ピッチつまり基本周波数の変化が伴った場合、母音の継続時間を制御させるのが難しいため、発話のピッチレンジを押さえることにより、母音長への影響を極力押さえるというストラテジーを無意識に採用しているものと思われる。
 残念であったのは、当初言語の初級者と上級者の発話を比較する予定であったが、初級者のデータは読み間違いが多すぎ、またフレーズ中にポーズが挿入されてしまっていたサンプルが多すぎて、データとしては使えないものが多かったため、比較はとりあえずしていない。テストフレーズが初級者には難しかったのかもしれない。今後の課題として検討したいと思う。