表題番号:2001A-510 日付:2003/02/16
研究課題自己決定権の総合的考察-法における新しい人間像折出の観点から
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 笹倉 秀夫
研究成果概要
本研究が課題としたのは、自己決定権の総体的考察である。報告者は、2001年度と2002年度とにわたって、憲法や労働法・社会保障法における自己決定権論を考察するとともに、民法における成年後見制度や、刑事法における修復的司法や、被告・被害者の新しい位置づけ等についての議論を追いつつ、自己決定権をめぐる新動向の把握と、そこから導き出される理論的意味について、考察を進めた。
 また、法実務における新動向の背景をなす動きを知るために、現代社会における個人の位置をめぐる哲学・思想分野の新動向、とりわけ、ポストモダニズムにおける「個人」の位置づけと、それとは別方向をとる、社会哲学上の現在における個人存在の再評価論(リベラリズムやその批判論)についても、考察を進めた。
 報告者は、こうした考察を通じて、まず、自己決定権の根底にあるものとしての幸福追求権を深め、それを根本原理として法体系を見た場合に、人権に関わる法の全体がどのように位置づけられるかを、「幸福追求権から構築した人権論」という文書にまとめた。また、自己決定権に関する議論は、実定法から出発しつつその根底にある法原理を明らかにしようとするものであるから、そうした原理論を方法論的に位置づける必要がある。そこで「「実定法的原理」考」と題する論文を書いた(2003年度中に出版予定)。そのほか、法哲学の教科書(『法哲学講義』)を2002年9月に行うに際して、自己決定権論についての部分を新しい知見基づいて書き上げた。また、ポストモダニズムの位置づけについて、2003年3月に出版予定の『丸山眞男の思想世界』の著作の中で論じた。
 成年後見制度や修復的司法などを含めた本格的考察のまとめは今後の課題であるが、上述の成果をふまえつつ、考察を進めることによって、早期に成果の出版に入りたい。