表題番号:2001A-509 日付:2008/06/02
研究課題契約自由原則の民法内在的論理による制限と外在的政策的理由による制限とに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 内田 勝一
研究成果概要
 現代の福祉国家においては、国家は市場経済を前提としつつ、一定の社会経済的な目的を達成するために、社会経済過程に介入をする。本研究では、福祉国家の諸類型についての考察を前提として、民法における基本原則である契約自由の原則の制約制限について検討を加えた。本研究では、契約自由原則に関しては、民法内在的な論理に基づく制約と、外在的・政策的理由による制限とがあるとして、制限についての二つの異なる形態を分析した。
 契約自由の内在的制約原理としての、契約の本性、契約正義、公序良俗、信義則等の原理と、契約法の各領域における、消費者保護、社会的弱者保護等政策的理由に基づく制限とは発生的には異なること。政策的理由による制限は、民法典の外部に特別法として生成するが、民法の拠って立つ社会哲学である、国家像の変化に伴い、福祉国家としての性格が強化されるにともない、民法典に組み込まれていく傾向が見られる。組み込みに際しては、両者の区分分けが行われ、公法的規制、特別の政策的配慮に基づく規制は民法典には組み込まれることなく、特別法として存在する。このプロセスがもっとも明確なのはドイツ法における賃貸借法改正である。
 このことを念頭に置いて、賃貸借法における制約の形態を分析し、戦後の民法学に見られる居住権という論理に基づく賃貸借法の再構成は、住宅政策との関連においてその特性を浮き彫りにしたが、それ故に、民法内在的な論理との結びつきが希薄になり、ドイツ法に見られるような民法典の基本原則への影響が見られなかった。しかも労働法のような政策的理由付けの強固さが見られなかったが故に、特別法領域としての独立性にも乏しいという状態を生じさせてしまった。
 以上のようにこの研究では、福祉国家の類型による法的介入の相違、契約自由原則制限における二つの異なる論理、賃貸借法の分野における分析の3点についての考察が加えられた。