表題番号:2001A-508 日付:2003/05/09
研究課題知識の経済分析に向けて:学史からの展望
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 助教授 若田部 昌澄
研究成果概要
本研究の目的は、知識の経済分析の可能性を、経済学史の視点から探求することにあった。主目標は、経済学の歴史、とくに経済発展論の歴史に即して知識論の系譜をたどることであった。具体的には、これまで研究してきたジョン・レーを手がかりに、18世紀的な知識の捉え方から19世紀的な知識の捉え方への転換を対比する研究を行うことを目的とした。

2年間の研究で、知識が経済発展に及ぼす役割について、過去の経済学者がどのような見解を抱いていたのかについて、展望を行った。デイヴィッド・ヒュームやアダム・スミスをはじめとする18世紀の経済学者は、知識と経済発展の関係についてはかなり楽観的な構想をもっていた、すなわち、知識の伝播を支える市場という制度があり、なおインセンティブをゆがめるような政策がなければ、経済全体に知識が行き渡り経済は発展すると考えていたのである。これが1820から1830年代の経済学者たちになると、知識と経済発展をめぐって多様な構想が提出されるようになった。そうした構想の例として、ジョン・レーの貢献だけでなく、チャールズ・バベッジの貢献も視野に入れた。レーの場合、政府による経済発展始動のための意識的な知識創出政策構想が展開されている。一方のバベッジの場合は、より企業の内部に焦点をあてて、企業組織の段階で知識が適切に蓄積されるために意識的な管理が必要なことを強調した。