表題番号:2001A-502 日付:2004/03/24
研究課題法の支配と行政法-日・米・EU行政法の比較-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 大浜 啓吉
研究成果概要
本研究の目的は、40年ぶりに行政事件訴訟法改正問題が浮上したことを受けて、現行政訴訟の根底にある理論を憲法理念に即した新しい理論を創造することにあった。その前提にある認識は、現行行政訴訟制度は、明治憲法下に成立した立憲君主制固有の行政法理論を基礎にしているというものであった。
このことは、一方で、行政訴訟制度の前提にある基礎理論の根本的見直しを必要とする。伝統理論が行政法理論の基礎を「法治主義」ないし「法律による行政の原理」に求め、①法規創造力の原則、②法律優位の原則、③法律の留保の原則をその内容としてきた。しかし、これらは実は、天皇主権を前提とする立憲君主制下の公法原理でしかなかった。これを国民主権の日本国憲法の下でも利用できるとしたこと自体に無理があったと言わなければならない。事実、伝統説は③を中心に行政法の基本原理を理解してきたのである。これに対し、私は「法律に基づく行政の原理」を提唱した。これは憲法原理である法の支配を行政法に投影したものであり、行政権を法律の執行機関と位置づけ、①委任立法禁止の原則、②実体的デュー・プロセスの法理、③手続的デュー・プロセスの法理、④裁判救済の法理からなることを提唱した。
 他方、行政訴訟制度においては、取消訴訟がその中心をなしている。そして、現行制度の前提には公定力理論がある。しかし公定力の概念及び公定力理論は、立憲君主制の残滓に過ぎず、国民主権の現憲法の下では、立法論としてはもちろんのこと、解釈論としても採用できない。私は本研究においてこの点を主張・論証した。
 そのために、①訴訟の性質としては、通説のとる形成訴訟説ではなく確認訴訟説を基本とすべきこと、②法の支配の原理の下では、行政法は政策実現法律としての実質を持つこと、③行政訴訟も意思自治原則を基本に再構成すべきであり、公定力を前提にしない原因行為を直接争う訴訟として再構成できることを論証した。