表題番号:2001A-149 日付:2002/04/18
研究課題快・不快感情の精神生理学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 山崎 勝男
研究成果概要
自律神経系の反応特異性とは,特定の刺激に対して特定の生理的反応が生 じることをいう.本研究の目的は,快・不快の情動喚起に対する自律神経系の反応特異性を検出することと,自律神経系の指標によって快・不快の情動を弁別することである.各10 min間に編集した3種類の映像刺激を用いて,快の情動喚起条件,不快の情動喚起条件,特定の情動は喚起させない統制条件を設定し,15名の男女被験者(平均年齢:23.9歳)から,血圧,心電図,指尖表面皮膚温,呼吸を同時測定した.映像刺激呈示後,喚起された情動を質問紙によって評定させた.その結果,快・不快の情動喚起条件ともに,それぞれ標的とした情動が明確に喚起された.心臓血管系の指標は,快の情動喚起時では低下し,不快の情動喚起時では上昇した.指尖表面皮膚温は,快の情動喚起時では変化しなかったものの,不快の情動喚起時では急峻に低下した.指尖表面皮膚温の低下は,恐怖,嫌悪といった強い不快の情動喚起に伴う末梢血管抵抗の上昇に起因したものと考えた.また,血行力学的側面から,平均血圧上昇は末梢血管抵抗と心拍数の上昇が重畳したものと考察した.一方,情動喚起場面でみられた方向性の異なる心臓血管系の反応パタンは,刺激に対する認知説,いわゆる取り込み-拒絶仮説からも説明可能である.快の情動喚起時では映像刺激に対する興味,つまり環境刺激の取り込みが心臓血管系の指標を低下させ,不快の情動喚起時では不快な映像刺激の拒絶が,心臓血管系の指標を亢進させたものと考えられる.動画が喚起した快と不快の情動に対して,方向性を異にする反応パタンが出現したことから,背景には自律神経系の反応特異性が内包しているものと論議した.