表題番号:2001A-121 日付:2002/05/10
研究課題高分子絶縁材料中の不純物が絶縁特性に与える影響の解明と直流ケーブル用材料の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助手 平井 直志
研究成果概要
 本研究は、架橋ポリエチレンケーブル中の空間電荷形成機構を空間電荷分布の実時間測定により解明し、架橋ポリエチレンケーブルが直流長距離送電に利用できる可能性を示すことを目的としている。有機高分子絶縁体の試料としてポリエチレンを使用し、架橋剤分解残渣である、アセトフェノン、αメチルスチレン、クミルアルコールそれぞれを浸漬させた試料を用いて、これらの残渣がポリエチレン中における空間電荷形成に及ぼす影響を測定した。
 アセトフェノン、αメチルスチレンの場合は、浸漬試料と未浸漬試料で構成された2層誘電体では、浸漬試料―未浸漬試料の界面に浸漬試料が接している電極と同極性の電荷が蓄積した。クミルアルコールの場合は、前2者とは対照的に、浸漬試料―未浸漬試料の界面に浸漬試料が接している電極と逆極性の電荷が蓄積した。アセトフェノン、αメチルスチレンにおける電荷蓄積の原因は、伝導電流測定より(導電率/誘電率)の不連続性によるものであると考えられる。これより、アセトフェノン、αメチルスチレンは、電荷移動を促進する作用があると判断できる。一方、クミルアルコールの場合は、伝導電流測定より浸漬試料の導電率の増加は確認されたが、浸漬試料―未浸漬試料の界面に蓄積された電荷の極性が前2者とは違うことより、電荷蓄積の原因は、(導電率/誘電率)の不連続性によるものではなく、クミルアルコールは注入電荷をトラップする作用を持っていると考えられる。
 そこで、注入電荷トラップの原因を明確にするため、化学薬品の化学構造とくにカルボニル基、水酸基、ベンゼン環に注目し、それらの化学基の少なくとも1つ以上を含む薬品を使用して空間電荷分布測定を行った。架橋剤分解残渣である3種類の薬品に加えて、ベンゼン環を持つドデシルベンゼン、水酸基とカルボニル基を持つグリセリンモノステアラート、ベンゼン環と水酸基を持つジブチルヒドロキシルトルエンを使用した。空間電荷分布測定の結果、浸漬試料―未浸漬試料の界面電荷は、ドデシルベンゼンの場合は、アセトフェノン、αメチルスチレンと同極性の電荷、グリセリンモノステアラート、ジブチルヒドロキシルトルエンはクミルアルコールと同極性の電荷の蓄積が得られた。この結果より明らかなことは、界面における蓄積電荷の極性と化学構造の関係において水酸基を持つ薬品がポリエチレン中に存在すれば注入電荷をトラップする作用があると考えられることである。
 つまり、アセトフェノン、αメチルスチレンは、ポリエチレン中において電荷移動を促進する作用を持つのに対し、クミルアルコールは、電荷をトラップして空間電荷を蓄積させる作用があり、その電荷トラップの原因は水酸基であることを見いだした。