表題番号:2001A-107 日付:2002/05/09
研究課題マルチボディダイナミクスの解析を目的とした最適なDAEソルバーの設計と開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 吉村 浩明
研究成果概要
ロボットや宇宙構造物などのマルチボディシステムのダイナミクスの解析には,高速かつ安定な数値積分法の開発が不可欠である.すなわち,マルチボディシステムは,多数のジョイントやボディが結合されることによって,運動学的,力学的拘束条件が極めて複雑化し,その数学モデルは,いわゆる陰関数形式の非線形微分代数方程式群(以下,DAE)となっており,数値的に安定な解を求めることが非常に困難となっている.そこで,本研究では,まずシステム構造に注目することにより,DAE系としての構造化を行い,その上で,安定かつ高速にニュートン法の解析を行うアルゴリズムを考案した.その方法として,スティッフ安定なBDF法による微分項の離散化を行い,さらにヤコビ行列の係数間の入出力関係を行列として把握し,その入出力関係による逆行列計算過程を陽に記号生成する手法を提案した.まず,システムに現れる様々な運動学的,力学的関係を双対な接続行列N,Bを用いて表し,接続構造としてモデル化する.さらに,従属変数と方程式のオーダーにしたがって,システムのレティキュレーションレベルを設定し,各々のレベルで系のシステム方程式を導出する.それから,ヤコビ行列を求めて,スパースタブロー法で数値解析を行う.ここで,特に,ヤコビ行列の各要素について,変数間の入力変数と出力変数に,それぞれー1,+1を割り振り,この入出力関係から系のスパース構造を完全に把握することで,ニュートン法における逆行列計算過程を記号生成する.この方法により,スタンフォードマニピュレータについて,通常のガウス消去法の約1万倍近くの高速化が可能となった.
 次に,通常の産業用ロボットの運動のように,拘束条件としてホロノーミック拘束を有する系について,数値解が拘束条件に対してドリフトを生じないよう,拘束安定化を行う必要がある.この点については,①Baumgarteの方法,②GGLの方法,③射影法の3つの方法により,比較検討を行った.まず,システム方程式の拘束条件を,(1)加速度レベル(指数1),(2)速度レベル(指数2),(3)変位レベル(指数3)に分類した.その上で,ドリフトが生じ易い指数1,2と,数値的安定性の面で悪条件となる指数3の定式化について,4バーリンク機構を用いて,数値解析を行い,拘束安定性および数値的安定性の比較を行った.その結果,射影法が,全ての指数に対して,最も拘束安定化が優れており,かつ数値的安定性の面でも良いことが判明した.