表題番号:2001A-103 日付:2005/12/09
研究課題複雑系経済学の展開とその政策的応用研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 樋口 清秀
研究成果概要
 本課題研究では、当面する地球環境問題に関して複雑系経済学の研究成果を適用し、合理的な説明とその解決策を模索しようと試みた。経済成長は地球環境には永続的にマイナスの影響をもたらすのか。もしその通りならば、地球環境を守るために、経済成長を抑制していかねばならない。それではこれから発展しようとする国々の人々は先進国の人々に対してその不公平さに大きな不満をもつであろう。ではいかがすべきであろうか。そこで研究では、経済成長(一人あたりのも国民所得の伸び)と環境の質とをクロスセクション分析の結果得られた環境クズネッツ曲線に着目した。
 これによれば、低所得からの経済成長では地球環境を汚染していくが、ある一定の所得水準を越えると、環境の質は経済成長とともに改善していくという。
この分析結果を政策に応用するならば、発展途上国を早急に経済成長させていくことで環境の質改善は実現させうることになる。果たしてその通りであろうか。複雑系のアイディアを持ちこむならば、環境悪化にしたがって、人々がどのような行動をとるのか検討しなければならない。不の外部効果の発生に対してである。環境汚染が進めば、汚染発生者、被害者双方の負担がますます大きくなっていく。これら大きな負担と犠牲を回避する必要性が経済成長とともに叫ばれるようになる。そしてその改善にむけて規制や技術開発、技術改善が要請され、実現されていく。これが更なる国民所得を挙げていくことになる。
 こうした考察により、環境クズネッツ曲線の非線形性には、環境汚染による不の経済外部効果に対して技術開発や改善という経済成長促進行動が重要なポイントであることを立証した。
 この成果は、以下の2本の論文
「環境クズネッツ曲線と複雑系」貯蓄理論研究会年報、第17巻
                平成14年12月、PP.273-284.
「複雑系と環境問題」早稲田大学理工学部複合領域『人文社会科学研究』
                平成14年3月、PP.37-54.
として公表している。