表題番号:2001A-102 日付:2002/05/01
研究課題エンジンのピストンリング列のスターブ潤滑に関する実験的および理論的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 林 洋次
研究成果概要
エンジンのピストンリングは往復動を行っており、運動方向が逆転する死点のように相対滑り速度がゼロになるところがあり、そこではくさび作用による圧力発生が期待できないので、一方向に回転する普通のジャーナル滑り軸受に比較して、その潤滑状態はきわめて複雑でかつ過酷である。実機では潤滑油の供給が不十分な状態のスターブ潤滑下で使用されるので、潤滑メカニズムの学問的な研究が近年特に重視されている。そこで、本研究は、実機のように複数のピストンリングから構成されるピストンリング列に対して、その相互作用に着眼して、潤滑油膜の挙動を実験的に解明する試験機を開発試作して、往復動ピストンリング列間の潤滑油の供給状況や油膜生成消滅状態を測定し、これらを考慮した潤滑理論を展開することによって、各リングの相互作用を解明してピストンリング列のスターブ潤滑メカニズムを明らかにする。得られた主な成果は
 実験的研究では、透明なアクリル樹脂で製作した1個ならびに複数の長方形ピストンリングを直動転がり軸受に装着すること
によって、きわめて実験精度の高いピストンリング列の試験機を開発試作し、各時刻における油膜の生成消滅ならびに油膜破断現象を写真撮影した。この油膜の挙動を分析し、先行するピストンリングから排出される潤滑油が後続のピストンリングに流入するため、先行するピストンリングに対する潤滑供給量が少ない場合の後続のピストンリングの厳しいスターブ潤滑状態を、油膜長さや破断本数など油膜形状に及ぼす複数ピストンリングの連成効果を測定すると同時に、死点における潤滑形成範囲を実験的に解明した。
 理論的研究では、実験で得られたピストンリング列の相互作用を考慮し、複数の潤滑方程式に対して、潤滑油が第1ピストンリングから第2ピストンリングへまた逆に第2ピストンリングから第1ピストンリングへと順次供給される時に、ピストンリング列間のすきまに保持される油量をも考慮して、各ピストンリングの油膜入口部および出口部における境界条件ならびに死点における境界条件を新らたに提案した。これらの境界条件を用い複数の潤滑方程式を初期値境界値問題として数値解析を行い、理論的にスターブ潤滑下における油膜の状態を算出した。これらの実験結果と理論結果を比較検討して、ピストンリング列のスターブ潤滑の解析的取扱いを確立すした。